【徹底解説】政府が蓄電池の戦略を「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」へ改訂。その理由とは?|TOHOBIZNEX

【徹底解説】政府が蓄電池の戦略を「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」へ改訂。その理由とは?

記事掲載日:2026/9/16

2050年カーボンニュートラル実現の鍵を握るといわれる蓄電池は、自動車の電動化や再生可能エネルギーの主力電源化などに不可欠な技術です。 政府は日本の蓄電池産業の国際競争力強化などを目指し、2022年に「蓄電池産業戦略」を策定。その後2026年6月に「蓄電池・電源産業戦略」へと改訂しました。 今回はこの新戦略について、改訂された背景や打ち出された目標、取り組みの方向性などを解説します。(ライター南由美子/nameken)

背景に見通しづらい需要と顕在化するサプライチェーンリスク

電気をためて必要なときに使う蓄電池は、車載用、定置用、産業用、家庭用などがあります。再生可能エネルギーの安定供給、 EV(電気自動車)のバッテリー製造、通信基地局やデータセンターなど重要施設のバックアップなどに用いられ、社会の基盤を支えています。

より大きなエネルギーを取り出せるようにすることや、より安全に扱える性能の高さが求められているため、 世界中で開発が行われていますが、実用化や量産化にはクリアすべき課題がまだ多くあります。

今回、日本政府が「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂した背景の一つには、蓄電池需要を見通しづらくなったことがあります。 欧米におけるEV販売目標の変更や導入支援策の見直し、CO2排出量削減目標の緩和などを受け、2030年時点の世界需要予測(車載用と定置用)は、 約1600GWh/年とする調査機関もあれば2900GWh/年とするところもあるなど、2倍近くの幅が出てしまっています。

また、特定の国や地域に依存する供給構造から、材料や部品、製造装置などの調達が滞るサプライチェーンリスクが顕在化していることも背景にあります。

「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」

図1・脱炭素化に伴う重要鉱物のサプライチェーンリスク(経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)関連資料 蓄電池・電源産業戦略 参考資料より抜粋・改変)

このように、蓄電池関連分野について政策的には後退した動きも見られますが、長期的には需要は伸び、求められる技術も多様化していくと考えられています。 成長が期待されるAI向けデータセンターをはじめ、医療や防災の分野など、高度な電気制御ニーズに応える総合的な蓄電ソリューションは一層必要とされていくでしょう。

日本政府は、今こそ日本企業がグローバル市場での存在感を発揮する好機だとして、投資を強力に進め、将来への布石を確実に打つことが不可欠だとしています。 蓄電池を中心とした電源システム全体での製造基盤の確立を図り、グローバル市場を獲得していくことが戦略改訂の狙いだといえます。

将来的な市場拡大を見通し国際競争力の強化へ

具体的には、新戦略で以下のような3つの目標が掲げられました。

●国内製造基盤の確立

蓄電池・部素材・製造装置の国内製造基盤150GWh/年の確立を「遅くとも2030年まで」としていた達成時期が、 新戦略では「2030年から2030年代半ば」に見直されました。また、多様化する蓄電池需要に対応できるよう、電源システム全体の最適化の促進、 サプライチェーン立ち上げ・切り替えなど、サプライチェーン全般にわたる強靱化も進めていくとされました。

「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」

図2・蓄電池セルの生産能力の伸び(経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)関連資料 蓄電池・電源産業戦略 参考資料より抜粋・改変)

●グローバルプレゼンスの確保

新戦略では、グローバルの蓄電池市場規模が2025年の23兆円から2035年には46兆円(約2倍)、2040年には55兆円(約2.4倍)に成長する見通しが立てられました。 これを踏まえて「日本企業の蓄電池関連売上高を2025年から2035年に3倍に成長させる」としています。

日本企業の技術力を生かし、蓄電池を中心とする総合的な蓄電ソリューションが市場に提供されることが期待されます。

「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」

図3・蓄電池市場の将来見通し(経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)関連資料 蓄電池・電源産業戦略 参考資料より抜粋・改変)

●次世代電池市場の獲得

全固体リチウムイオン電池(全固体電池)は2030年頃に本格実用化、 2030年代半ばに向けて需要規模に応じた製造基盤を確立するとの目標が示されました。全固体電池は、現在の主流であるリチウムイオン電池(LIB)に 液体の電解質が使われているのに対し、固体の電解質を使うもの。発火リスクが低く、急速充電や航続距離の向上が望めるゲームチェンジャー技術といわれ、 安全性や寿命、出力など多くの点でリチウムイオン電池(LIB)を上回る性能が期待されています。

こうしたリチウムイオン電池(LIB)に代替する可能性がある蓄電池を総称して「次世代電池」と呼び、 全固体電池のほか先進液系リチウムイオン電池、リチウムに替えて硫黄やフッ素化合物、ナトリウム、マグネシウムなどを使う電池が含まれます。

次世代電池の開発・導入には経済安全保障推進法に基づく支援やグリーンイノベーション基金などが活用されています。 次世代電池の市場を獲得することで、産業競争力の強化やサプライチェーンの強靱化につなげることも目指されています。

「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」

図4・蓄電池・電源産業戦略に関するロードマップ(経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)関連資料 蓄電池・電源産業戦略より抜粋・改変)

目標実現のため7つの柱で官民の取り組み推進

目標実現のため、以下の7つの柱に沿って官民一体で取り組みを進めていく方向性が示されています。

1. 国内基盤拡充のための政策パッケージ

2. グローバルアライアンスとグローバルスタンダードの戦略的形成

3. 上流資源の確保・サプライチェーン強靭化

4. 次世代技術の開発

5. 国内市場の創出

6. 人材育成・確保の強化

7. 国内の環境整備強化

「国内基盤拡充のための政策パッケージ」では、巨額の先行投資が必要かつ投資から供給までの期間が長い蓄電池産業の特性から、 あらゆる施策を総動員して着実に取り組みを進めると強調。150GWh/年という目標に向け、経済安全保障推進法による支援などで100GWh/年を超える計画が進行中です。

政策パッケージでは「多様な蓄電池の製造基盤の確立に向けた支援」が打ち出され、容量と出力に着目した競争力向上が図られます。 その背景には、多くの産業で電動化が進み、ドローンや無人搬送車、AIロボットといった用途でそれぞれの性能に応じた多様な蓄電池が求められていることがあります。特に医療、防災、 防衛といった優れた安全性や発火リスクの低さ、信頼性、長寿命、温度耐性などが求められる分野では、LIB以外も含め、製造基盤の確立に向けた取り組みが推進されます。

国際競争力を向上させる取り組みとしては、「DX・GXによる先端的な製造技術及び次世代電池等の量産技術の確立・強化」などが挙げられています。 日本企業の強みである蓄電池の性能・安全性などは維持しつつ、課題であるコスト競争力を向上させるため、コスト分析をしながら先端的な製造プロセスの開発投資を支援。 LIBの高容量化、再生材を使用したコスト競争力のある蓄電池の生産、 全固体電池などの次世代電池の量産を目指し、産業競争力を高める取り組みを加速するとしています。

これまでの「蓄電池産業戦略」という名称に「電源」が加わった新戦略。 本体製造だけにとどまらず、電気の変換、管理、通信、監視、安全装置など電源システム全体を含めて競争力を高める考えがうかがえます。 蓄電池・電源産業が、高度で多様化するニーズに応えながら、カーボンニュートラル実現に貢献することが期待されます。

≪ライタープロフィール≫
  • 南由美子(みなみ・ゆみこ)
  • 愛知県生まれ。飲料メーカーの販売促進、編集プロダクションでの制作を経て、フリーランスに。
  • 中日新聞折り込みの環境専門紙で「世界のエコ」をテーマにしたコーナーを2年半ほど担当。現在はウェブメディアなどで食・住を中心とした暮らしや環境をテーマに執筆。
  • 名古屋エリアのライターやカメラマンで作る一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」のプロ(メディア)会員。

参考

経済産業省ニュースリリース(2024年12月27日)関連資料
GX実現に向けた基本方針 分野別投資戦略 参考資料(蓄電池)
https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241227006/20241227006-7.pdf

経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)関連資料
蓄電池・電源産業戦略 参考資料
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001-2r.pdf

経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)
「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂しました
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001.html

経済産業省ニュースリリース(2026年6月2日)関連資料
蓄電池・電源産業戦略
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001-1r.pdf

一般社団法人 日本自動車会議所
経産省、蓄電池産業戦略を改定 「蓄電池・電源産業戦略」に EV減速で国内製造基盤の目標時期も延期
https://www.aba-j.or.jp/info/industry/27114/

日経BP 日経クロステック
経産省「蓄電池戦略」改訂、日本企業の関連事業を3倍に成長
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/05867/?ST=msb

国立研究開発法人産業技術総合研究所
全固体電池とは?
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220720.html

国立研究開発法人産業技術総合研究所
次世代二次電池とは?
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20231025.html

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