記事掲載日:2026/7/27
地震をはじめ台風や豪雨、山林火災など自然災害への懸念が増すなか、企業にはそれに対する備えと、被災しても回復・復興する力「レジリエンス(resilience)」が不可欠です。 特にエネルギー分野のレジリエンス強化は、災害時の事業継続に直結するだけでなく、通常時は温室効果ガス排出を削減し脱炭素につなげることもできます。 そうした「エネルギー・レジリエンス」の動向と事例を取り上げます。(ライター南由美子/nameken)
「レジリエンス」は「弾力」「はね返り」「回復力」などを意味し、災害面では被害を最小化するとともに、柔軟な対応で復旧し、立ち直る力を指します。
エネルギーの供給が長期間停止すれば、企業は業務を継続できなくなり、取引先への責任問題や社会的信用の失墜につながります。 特に経営基盤が脆弱な企業は、事業縮小を余儀なくされたり、廃業に追い込まれたりするおそれもあります。
そこで、災害時に有効とされるのがエネルギーの多様化・分散化です。 ガス、石油、再生可能エネルギーなど複数のエネルギー源やコージェネレーションシステム、蓄電池などを組み合わせることでリスク分散を図ります。
コージェネレーションシステム(コージェネ)は、ひとつのエネルギーから複数のエネルギーを同時に取り出すシステムです。 ガスコージェネレーションシステムでは、都市ガスを燃料としてガスエンジン、ガスタービン、燃料電池のいずれかで発電します。このときに生じる排熱で蒸気や温水を発生させ、生産工程や冷暖房などに利用できます。
たとえば、工場やビルなどに停電対応型ガスコージェネレーションシステムを設置すれば、停電時に自立起動し、重要なポイントに電力や熱を継続的に供給します。 2018年に北海道胆振(いぶり)東部地震で発生した大規模停電の際は、帰宅困難者の避難場所としてこのシステムを備えた施設が活用され、電力や熱を供給し続けました。
エネルギーの多様化・分散化の方法には他に「マイクログリッドの構築」があります。これは工場、オフィス、地域施設などをネットワークでつなぎ、再生可能エネルギーや発電機、蓄電池などを導入してエネルギーを柔軟に調整できる仕組みです。 エネルギーを自給自足して大規模停電時に自立運用することで、企業の事業継続を可能にします。
実際に災害時のエネルギー対策を行っている企業などの事例を紹介します。
ホテル向けリネンサプライ事業を展開する産業リネン株式会社では、工場で重油ボイラを使用していました。重油はタンクローリーで運ぶため、大雪の日に配送できず、工場の稼働が停止するトラブルが発生。 そこで約50年稼働していた重油ボイラから都市ガスボイラに更新し、燃料を安定して利用できるようにしました。
重油ボイラでは煤が発生するため、定期的なメンテナンスや近隣への配慮も欠かせません。都市ガスボイラへの更新でこれらの問題も解消され、メンテナンスの手間の軽減によって従業員の配置改善や作業の効率化などの検討も進められています。
パンメーカーである山崎製パン株式会社の工場は24時間365日稼働しているため、照明のLED化、高効率モーターへの交換、インバーターの取り付けなど、積極的な省エネに取り組んでいます。 創業時からの活動として、災害が起きた際は被災地へパンを届けており、そのためにいかに生産環境を維持するかにも注力してきました。
約20年前に停電対応型ガスコージェネレーションシステムを導入。2023年には約1年間の工事を経てシステムを更新しました。
停電してもシステムが利用できれば最低限の生産は続けられ、工場の従業員が緊急避難する場合も避難経路の照明を確保できます。働く人の安全を守り、事業を続け、その上で被災地を支援していく。
その基盤となる仕組みにガスコージェネレーションが採用されています。
【事例紹介】山崎製パン株式会社 名古屋工場さまの取り組みについて
道の駅や温浴施設、レストラン、サイクルステーション、戸建住宅などで構成される千葉県睦沢町の複合施設では、地域資本を主体にした企業体が電気と熱を供給しています。
地元のガス田から産出する天然ガスを燃料にしたガスエンジンコージェネレーションシステムと太陽光発電、太陽熱を利用。 ガスを分離した後のかん水※を、コージェネの排熱で加温して温浴施設で利用している国内でも珍しい事例で、地元産の天然ガスをムダなく使い切っています。
※かん水:塩分を含んだ太古の海水で地下水に含まれる。通常の海水の約2,000倍のヨウ素を含む。
コージェネで発電した電気は、道の駅と住宅エリアに供給。通常時は電力需要の約75%をコージェネ発電と太陽光発電による電力でまかない、残りを商用系統から運用しています。 コージェネや太陽光発電を積極的に運用することで、全体のエネルギーコストの削減につなげています。
また、国の「重点道の駅」および防災拠点に指定され、災害時はコージェネによってエネルギーを供給します。2019年の台風災害では広域で大規模停電が発生しましたが、 この施設では一時的に停電したものの、電気設備に異常がないことを確認後、道の駅と住宅に送電しました。 さらにコージェネレーションの排熱を利用した温水シャワーを周辺住民に提供しています。
エネルギー・レジリエンスは災害時に力を発揮するだけでなく、通常時はカーボンニュートラル達成に貢献する相乗効果も期待できます。
脱炭素とエネルギーの最適化を図る方法についてご紹介します。
コージェネレーションシステムは熱と電力の供給を同時に行い、エネルギー効率を高めます。 発電時の排熱を有効利用するため省エネ性に優れ、他の化石燃料よりCO2排出量の少ない天然ガスを使えば省CO2にも貢献。 電力需給ひっ迫時に系統電力を使わないピークカットの面でもメリットがあります。
太陽光発電設備と蓄電池を導入すれば、日中に発電して夜間や停電時に使用できます。 災害時は自立稼働させ、事業継続に必要な動力、通信機器やサーバーなどに電力を供給。通常時は電力のピークカットや電気料金削減に貢献します。
CO2削減に貢献するEVは災害時の非常用電源にもなります。 通常時は電力価格が安い時間帯に自動充電し、高価格帯に放電することで電力コストを削減。災害時は重要拠点の復旧まで社用EVを移動式の蓄電池として活用できます。
災害時のBCP(事業継続計画)として、エネルギー・レジリエンスへ取り組むことは、カーボンニュートラルへの取り組みにもつながっているようです。
自然災害への対策は企業にとって避けられない重要な取り組みです。
普段からの備えとリスク分散を、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
経済産業省 資源エネルギー庁
第4節 エネルギーレジリエンスの強化
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/1-2-4.html
経済産業省 資源エネルギー庁
災害に強い都市ガス、さらなるレジリエンス向上へ
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gas_resilience.html
京都大学防災研究所
災害レジリエンスと防災科学技術
https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/nenpo/no59/ronbunA/a59a0p02-2.pdf
朝日新聞
レジリエンスとは?分野ごとの意味やSDGsとの関連性、事例を解説
https://www.asahi.com/sdgs/article/15628098
中小企業庁
中小企業BCP策定運用指針
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html
一般社団法人 日本ガス協会
ガスコージェネレーションシステム
https://www.gas.or.jp/pdf/download/catalog.pdf
東邦ガス株式会社
TOHOBIZNEX【事例紹介】産業リネン株式会社さまのボイラ更新について
https://biznex.tohogas.co.jp/article?articleId=SV00361
東邦ガス株式会社
TOHOBIZNEX【事例紹介】山崎製パン株式会社 名古屋工場さまの取り組みについて
https://biznex.tohogas.co.jp/article?articleId=SV00169
国土交通省
むつざわスマートウェルネスタウン拠点形成事業
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/content/001493239.pdf
一般社団法人 日本ガス協会
ガスコージェネレーションシステムの概要
https://www.gas.or.jp/gas-life/n-cogeneration/
ガスエネルギー新聞
【コージェネ特集】コージェネで災害に備えを
https://www.gas-enenews.co.jp/tokushu/29109/
大阪ガス
脱炭素経営とBCPを同時に進める「エネルギーレジリエンス」
https://ene.osakagas.co.jp/media/column/column_24.html