岡本文宏: メンタルチャージISC研究所代表取締役
記事掲載日:2026/4/27
※本記事は「ダイヤモンド・オンライン」より提供を受けて掲載しています。
任せ上手な上司、経営者は、共通して『観察力』にたけています。アンテナを立てて観察すれば、 部下の状態、現場の状況が把握できるので「どのように声を掛ければ良いのか」や「任せるタイミング」などが分かります。
部下はAIやロボットとは異なり、生身の人間ですので、毎日、考えていることやコンディションが違ってきます。 午前中に起こった出来事に影響されて、午後はモチベーションが下がってしまい、仕事が手につかない状態になることもあるでしょう。 部下の心境や状態が常に変化していることを、しっかり把握していかなければ、仕事を任せることはできません。
変化に気づくためには、部下に興味を持って観察することが不可欠です。 「声のトーン」「話すスピード」「表情」「目の動き」「姿勢」「歩き方」「態度」「仕事への取り組み方」など、できるだけ細かく観察することがポイントです。
過剰に反応する必要はありませんが、前日と比べて気掛かりな点があれば、こちらから声を掛けるなどして、部下の状態を把握してください。 必要であれば、個別ミーティングを行い、じっくり話を聞く機会を設けましょう。
部下に仕事を任せるには、信頼関係の構築が欠かせません。部下から信頼がおける上司、経営者と思われるための一番シンプルな方法は、「話を聞く」ことです。人は自分の話を聞いてほしいと思っています。 聞いてもらえていると感じれば、人間の根源的な欲求の一つである「承認欲求」が満たされます。自分のことを認めてくれている上司、経営者から任せられた仕事であれば、頑張って取り組もうと思えます。
話を聞くときは、しっかり相手の話に耳を傾けて、受け止めながら『傾聴』することが大切です。 私が以前、コミュニケーションについて学んだスクールでは、相手の話は『全身で聞きなさい』と教えられました。 「ながら聞き」をするのではなく、何か別の作業をしていたとしても、手を止めて、体も意識もすべて相手に向けて聞くことだけに専念するということです。 パソコンのキーボードを操作しながらや、スマホを見ながら話を聞くのはNGということです。
そう言うと「忙しいのにそんな余裕はない」と思う方もいるでしょうが、部下の話は報告や連絡が多く、しっかり受け止めれば、2分程度で終わります。 こちらが受け答えをしても、会話自体は5分ほどで済むはずです。 たった数分、全身を部下に向けて話を聞けば、自分の話を聞いてくれる人だと認識するので信頼が増します。そうなると、上司、経営者の話もちゃんと聞こうと思えるので、マネジメントが上手く機能し始めます。
部下は、あなたにとって大切な存在のはずです。大切な人の話をきちんと受け止めることと、目の前の作業をてんびんにかければ、どちらが重要なことなのかは自明でしょう。
もちろん、状況によっては、聞くことに時間が割けない場合もあります。その際は、理由を説明して、作業をしながら聞いても良いかどうか尋ねて部下に許可を得てください。 もしくは、いつであればしっかり聞けるのか伝えて、改めて話をしてもらうようにしましょう。
聞くときのポイントは、相手が話しやすいと感じる柔らかい表情でいることを意識してください。 うなずく、相づちを打つなどして、こちらがきちんと受け止めていることが分かるようなリアクションをすることも必要です。
仕事を任せる際は、相手のことを理解することは必須です。その際、もう一つの「訊く」である「質問」をすれば、心境の変化や現状が分かるので、部下のことを理解するのに効果的です。
また、質問すると部下の行動が促進されます。誰かに「○○をやりなさい!」と指示命令されたことよりも、「何から取り組みますか?」と質問され、 自ら「○○から始めます」と答えたほうが、前向きな気持ちで取り組めます。
実際、1985年にアメリカの心理学者であるエドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)が、「他の人から指示命令されて行動するよりも、自分で物事を決め、 自身の意志で行動する方が、より良い成果が出るとともに行動の『質』も高くなる」と、『自己決定理論』の中で提唱しています。
これは、「自分の行動は自身の意思で選択し行っていると感じたい」という「自律性の欲求」が満たされた結果です。 指示ではなく、質問をすることで「自律性の欲求」が満たされるので、スタッフの行動が促進されていきます。
質問をする際のポイントは、相手が答えやすい質問を作ることです。まずは、「1回につき質問の要素は1つが原則」と覚えておいてください。 たとえば、「今日は何の映画を見て、その後にどの店に行って、何を食べたいですか?」と質問されるよりも、 「今日は何の映画を見に行く?」「その後のランチはどこに行きたい?」「その店で何が食べたい?」と、3回に分けて質問をした方が答えやすいでしょう。
相手から、詳細な情報を得たい場合は、「YES」「NO」で答えられる質問ではなく「何に取り組みましたか?」「どうすれば解決できるでしょう?」という具合に、 What、Howなどの疑問符を使う質問文を作ると、具体的な答えが返ってきます。
ただ、質問された部下が上辺でしか答えない場合もあります。その際は、一問一答形式ではなく、「他には何がありますか?」「もっと詳しく教えてください」など、 掘り下げる質問を投げかけてください。3回程度掘り下げれば、相手の本音が聞こえてきます。
アメリカ大リーグで、2024年のワールドシリーズを制したのは、大谷翔平選手が活躍するロサンゼルス・ドジャースでした。かなり前の話ですが、 日本人として同じようにドジャースで大活躍をした野茂英雄選手が在籍していた、当時のチームを率いていたのはラソーダ監督でした。彼は20世紀最高と称される名監督です。
スポーツの監督は一部を除き、自分ではプレーしません。試合中は選手たちに任せるほかありませんし、任せ方によって勝敗が決まると言っても過言ではないでしょう。
ラソーダ監督の任せ方は秀逸でした。チームでプレーをする選手たちのことを日々観察したり、会話をしたりして気づいたことを、 ノートにメモして、個別対応のマネジメントを行なっていたのです。このノートはラソーダメモと呼ばれています。
とくに重要なのが「褒める」ことです。たとえば、A選手がファインプレーをしたときに、「○○○」と褒めればモチベーションが上がると分かれば、 その褒め言葉をメモしておいて、実際にその言葉を使って選手を褒めるのです。 そうすれば、選手のモチベーションがアップして、その後、気持ち良くプレーを続けられます。
かつて私がセブンイレブンのFC店を経営していたときに、30人ほどのスタッフの普段の様子を観察したり、 雑談の中で得た情報をメモして記憶し、彼、彼女たちの特性を理解するように努めていました。メモを取るのは数分でできるので、手間暇は掛かりませんが効果は絶大でした。 コミュニケーションが充実し、上下の関係性も良好となり、結果として、スムーズに仕事を任せることができるようになりました。
任せたことが上手くできた時、メモに記入しているスタッフの一番喜ぶ褒め言葉を投げかければ、エンジンがフル稼働になります。 そして「心のご褒美」を手渡されたスタッフは、次に任せられたことにも、しっかり取り組もうと思うようになります。
(メンタルチャージISC研究所代表取締役 岡本文宏)