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EU排出量取引制度(EU-ETS)についてわかりやすく解説します

記事掲載日:2026/4/22

近年、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするネットゼロを目指す動きが世界的に広がっています。 中でもEUは、2050年のネットゼロに向けて法的な気候変動対策を強化していく方針です。これは、欧州でビジネスを展開する日本企業にとっても、避けては通れない重要課題となっています。 その根幹を支える政策の一つ、EU排出量取引制度(EU-ETS:EU Emissions Trading System)についてわかりやすく解説します。(ライター南由美子/nameken)

2005年から徐々に規定を厳格化して第4フェーズへ

EU-ETSは、温室効果ガスの排出量に応じて負担金を求めるカーボンプライシング制度で、企業が排出する温室効果ガスの量に上限を設け、 余剰分や不足分を売買する手法によって排出量削減を目指します。 EUが定めるルールに基づき割り当てられた排出枠の量が対象施設の上限となり、それを超過した場合には市場から排出枠を購入し、下回った場合は余剰分を売却できます。

EUの全27加盟国とアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた欧州経済領域(EEA)で運用。 排出量取引制度(ETS)自体は世界各国・地域で取り入れられていますが、EU-ETSは最大規模で、経済成長と環境政策の両立を目指す取り組みとして欧州経済領域(EEA)以外からも参考にされています。

2005年に導入され、温室効果ガスを対象とする排出量取引制度のなかでは最も歴史があります。 2005~2007年は試用期間の第1フェーズ、2008~2012年は第2フェーズ、2013~2020年は第3フェーズ、2021~2030年は第4フェーズになり、徐々に規定を厳格化しています。

制度の対象はEU域内にある一定規模以上の発電所、製鉄所、セメント工場などエネルギー集約型の大規模施設。 第2フェーズ以降は段階的に航空、アルミニウム製造、非鉄金属製造、海運などの部門も追加されました。EU域内にある日本企業の製造拠点も対象となっています。

制度開始当初は、加盟国がそれぞれのルールに基づいて対象施設に排出枠の大半を無償で割り当てていました。第3フェーズ以降はEU全体の温室効果ガス削減目標と照らし合わせ、 まず対象業種全体での排出枠を決めてから各施設に排出枠を割り当てる方法に切り替え、有償のオークション(入札)による排出枠の量も増えています。

暖房や道路輸送用燃料の販売事業者も対象に

2023年の制度改正では「EU-ETS II」の創設、CBAM(炭素国境調整措置※)の導入などで、さらに対策が強化されました。

2030年までのEU-ETSの対象部門の温室効果ガス削減目標(2005年比)は43%から62%へ引き上げられ、排出枠の無償割り当てが縮小。 新たに創設されたEU-ETS IIでは商業・事業・居住用建物の暖房や道路輸送、小規模産業部門で使われる燃料を供給する事業者が対象になりました。 CO2の直接排出者ではなく、CO2排出につながる燃料の供給事業者で、天然ガスやガソリン、ディーゼル燃料、暖房用灯油、石炭などの幅広い化石燃料が含まれます。

これによって対象事業者はコストを販売価格に転嫁し、消費者側にも間接的に負担がかかると想定されるため、 EU内に「社会気候基金」を設置して、弱い立場にある市民や零細企業を支援する方針も決まりました。 この基金は燃料供給事業者による排出枠のオークションから資金を得て、加盟国による拠出金も加える計画。市民への支援のほか、各国の気候変動対策にも活用される見込みです。

EU-ETS IIの排出枠のオークションが開始されるのは2027年から。エネルギー価格が異常に高騰した場合には、開始時期が1年延期になる可能性もあります。

※CBAM(炭素国境調整措置)とは、EU域外からの輸入品に事実上の炭素税を課す仕組みのこと

「監視・報告・検証」のプロセスの遵守が義務化

対象事業者には監視・報告・検証の一連のプロセス「排出量取引制度コンプライアンスサイクル」を遵守する義務があり、 販売した燃料について燃焼由来のCO2排出量を正確に、適切な時期に申告しなくてはなりません。

事業者は排出量のモニタリング計画を策定して年間を通じて測定し、翌年3月末までに前年の排出量を報告するほか、排出枠の償却などを行います。 事前の認定や第三者による検証も求められます。義務に反した場合には罰則が設けられています。

しかし、EU-ETS IIでは無償割り当てがなく、排出量の上限も厳しくなっていくため、排出枠の価格は不安定性が増す懸念があります。 排出枠購入のために経済的負担や事務量が増すことなどはビジネス上のリスクです。事業によっては代替エネルギーや CCS(二酸化炭素回収・貯留)などへの投資が必要になる場合があり、さらにコストがかかります。 コンプライアンスサイクルが履行できなかった場合は罰金、業務遅延、そして社会的な信用低下につながってしまいます。

このため、対象となる日本企業には、取り扱う燃料の用途別販売数量を把握するシステムの構築やデータ収集方法の確立、 コスト増大に備えた価格戦略や事業投資計画の検討、業界団体やコンプライアンスに詳しい専門家などとの連携が求められるでしょう。

一方、規制対象ではない日本企業も排出量や排出削減の取り組み状況について、取引先から問い合わせを受ける可能性があります。 EU向け製品の炭素含有量の把握やサプライヤーの選定基準の変更が必要になってくるかもしれません。 再生可能エネルギーによる暖房や電気自動車への移行、バイオメタンの調達などについて検討するのもよいでしょう。

こうした制度の強化や対象拡大は今後も続くと考えられます。社会の大きな流れに着目し、排出量の把握や削減に向けた取り組みを継続していくことが重要といえます。

≪ライタープロフィール≫
  • 南由美子(みなみ・ゆみこ)
  • 愛知県生まれ。飲料メーカーの販売促進、編集プロダクションでの制作を経て、フリーランスに。
  • 中日新聞折り込みの環境専門紙で「世界のエコ」をテーマにしたコーナーを2年半ほど担当。現在はウェブメディアなどで食・住を中心とした暮らしや環境をテーマに執筆。
  • 名古屋エリアのライターやカメラマンで作る一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」のプロ(メディア)会員。

参考

日経BP
抜本改革迫る、EU ETS徹底解説
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00003/020500044/

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
世界をリードするEUのカーボン・プライシング(1)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0502/cdd0133a4a27e311.html

環境省
EU域内排出量取引制度(EU-ETS)の開始について
https://www.env.go.jp/council/06earth/y060-26/ref01.pdf

日経新聞 ESGグローバルフォーキャスト
EU排出量取引制度(EU ETS)
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/forecast/atcl/rule/092900022/

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2024/01/5042c43437befe8d.html

日本エネルギー経済研究所
欧州排出量取引制度(EU ETS)
https://eneken.ieej.or.jp/data/11291.pdf

ACT
ETS2のための手引き、必要事項と今後の対応策
https://www.actgroup.com/ja/latest/blogs/a-guide-to-ets2-what-you-need-to-know-and-do-now

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