2026年最新「水素活用について」後編 〜国内外の事例〜|TOHOBIZNEX

2026年最新「水素活用について」後編 〜国内外の事例〜

記事掲載日:2026/2/2

カーボンニュートラル実現に貢献する次世代エネルギーとして注目を浴びている水素。 各国の水素戦略や施策を紹介した前編に続き、今回の後編は水素活用に向けた国内外の事例を取り上げます。(ライター南由美子/nameken)

国や自治体が後押しする日本の水素ビジネス

水素を社会で活用するには、「製造」「輸送・貯蔵」「利用」のサプライチェーンの構築が欠かせません。 それぞれの分野で水素ビジネスを後押しする制度がさまざまに用意され、技術開発が進んでいます。

「水素社会推進法」に基づく「価格差に着目した支援」「拠点整備支援」はその一つで、e-メタンを含む低炭素水素などの「製造」「輸送・貯蔵」分野の事業者を対象としています。 どちらの支援もすでに募集が終了していますが、価格差支援では廃プラ由来の水素を原料とした低炭素アンモニアの製造事業などが認定を受け、そのほかの事業も2025年度後半にかけて順次審査・認定される見込みです。

●「ウーブン・シティ」にグリーン水素供給

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」事業などを支援。 2025年9月に街開きした静岡県裾野市にあるトヨタ自動車の実証実験都市「ウーブン・シティ(Woven City)」で構築されているENEOSの 「裾野市CO2フリー水素ステーションを活用したパイプライン水素供給システムの開発」が採択されています。

ウーブン・シティでは水素エネルギーマネジメントシステム(EMS)の開発などが行われ、日本初のグリーン水素供給都市が実現されています。 ここに隣接したENEOSの水素ステーションでは、再エネ由来の電力で水を電気分解し、水素製造時のCO2排出量ゼロを目指しています。 こうして製造されたグリーン水素は乗用車や商用車などの燃料電池自動車に使われるとともに、パイプラインで街の燃料電池に供給され、発電や熱源に利用されています。

●名古屋では「脱炭素先行地域」のモデル事業

環境省は「脱炭素先行地域づくり事業」に取り組む地方公共団体を交付金によって支援。 2025年度までに「脱炭素先行地域」を選定し、地域特性に応じた先行的な取り組みの道筋をつけ、2030年度までに実行すると表明しています。

脱炭素先行地域の一つに選定された名古屋市が、東邦ガス、三井不動産レジデンシャルと取り組んでいるのが「再開発地区で実現する脱炭素コンパクトシティモデル」です。 2030年に民生部門の電力消費に伴うCO2排出を実質ゼロにすることを掲げています。

対象地域である名古屋市港区の大型複合開発エリア「みなとアクルス」では、太陽光発電と風力発電を導入するとともに、 市内5カ所のごみ焼却工場の再エネ電源を集約し、みなとアクルスに供給。東邦ガスが「太陽光発電とごみ発電を核とする広域再エネグリッド」を構築し、余剰電力でグリーン水素を製造します。 水素燃料電池やコージェネレーションシステムなども導入し、発電効率の高い水素燃料電池を集合住宅全戸に設置する計画です。

●ニーズに応え、中部地区に水素供給拠点を開設

製造業の集積地である中部地区では、ガスを燃焼させるバーナや工業炉で、エネルギーの代替として水素活用を検討している企業が多いことから、 東邦ガスは水素製造プラントを知多緑浜工場の敷地内に2024年に建設。同社が運営するオンサイト型水素ステーションの2倍強に当たる、1日1.7トンの水素製造能力を備えています。

製造された水素は、水素トレーラーや水素カードルに充填して様々な用途に供給。熱分野では燃焼用エネルギーとして使われているほか、 水素ステーションや工業用原料としての用途もあり、幅広い分野での活用が進んでいます。 このプラントの開設によって、水素のサプライチェーンとして製造から供給までをワンストップで行う体制が整い、中部地区のカーボンニュートラル実現に貢献することが期待されています。

●東京都は輸入水素を湾岸エリアで供給検討

東京都はカーボンニュートラルを目指す「2050東京戦略」の一環として、水素エネルギーの社会実装化に向けて 「東京におけるパイプラインを含めた水素供給体制検討協議会」を2024年4月に立ち上げました。
将来の基幹エネルギーとして水素をカーボンニュートラルの柱とし、需要量や供給体制の構築を見据えてロードマップを作成。海外から価格の安い水素を受け入れることを想定して、 輸入した水素を湾岸エリアに供給するパイプラインの整備も検討します。

2025年には、川崎臨海部から都内に水素供給するための大規模な高圧水素パイプライン構築の実現可能性を調査する事業者を公募で採択し、 2026年度末まで総延長約25kmのルートや施工方法などを探ります。
協議会にはエネルギー関連会社や商社、銀行などの民間企業・団体のほか、経済産業省、環境省、国土交通省、大田区、港区、川崎市など国や自治体も参加しています。

水素の需要増加を見込んで展開中の海外プロジェクト

●欧州:全域で水素の輸送インフラ網を整備

欧州では国境を超えて全域で水素活用を促進する動きが見られます。
2017年から2023年にかけてのプロジェクト「JIVE」「JIVE2」ではフランス、ドイツ、アイスランド、イタリア、ラトビア、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、イギリスなどの 22都市に約300台の燃料電池バスと水素燃料補給ステーションなどの関連インフラを整備。 スケールメリットによりバスの低コスト化を図りました。車両とインフラの実用化を進め、バス事業者が補助金なしで燃料電池バスを保有できるとしています。

輸送インフラと水素市場の拡大を目指し、欧州全域に水素パイプライン網を整備する計画「European Hydrogen Backbone(EHB)」も進んでいます。
2040年までに約2万3,000 kmの水素専用パイプラインを新設し、既存の天然ガス用の再利用と合わせて約5万8,000 kmの水素パイプライン網を整備します。 パイプラインは水素を長距離かつ大量に輸送する低コストの手段として期待されており、水素の生産地と需要地が離れている欧州で、コスト低減と安定供給の実現を目指します。 なお、国際的な整備によって電力や貯蔵への投資が3,300億ユーロの節約になると見積もられています。

● イギリス:ウィスキー蒸留などで政府支援を活用

イギリス政府が公表しているCfD(差額決済契約)制度の利用事例の一つに「ウィスキー蒸留工場での水素専焼ボイラー」があります。 ウイスキーの蒸留には炉やボイラーに重油を使い、大量のエネルギーを必要とします。 そこでスコットランドのウイスキー蒸留工場では、重油に替わって水素ボイラーの蒸気で熱を発生させ、CO2排出削減につなげています。

政府支援には他に「ネットゼロ水素基金」や「水素製造ビジネスモデル」などもあります。 後者では「Hydrogen Allocation Round(HAR)」という資金調達メカニズムでグリーン水素製造に補助金を交付。1回目(HAR1)の契約プロジェクトには、 日本企業も関わっている丸紅ユーロパワー社の「HyBont Green Hydrogen Project」が選ばれました。 南ウェールズの工業団地にある施設に電解プラントを2025年から建設、2027年に稼働させ、年間500~850トンのグリーン水素を製造する計画です。

●ドイツ:港湾都市で再エネ利用の水素プロジェクト

ドイツ北部のハンブルクは産業が集積して水素需要の潜在性が高く、港湾都市のため水素輸入の拠点でもあります。 ここで北海の洋上風力発電由来の再エネを利用した水素プロジェクトが進行中です。 廃止された石炭火力発電所の敷地を転用し、将来的な拡張も予定。2027年から商用運転を開始し、年間約1万トンのグリーン水素を製造する計画です。

港には約60kmのパイプライン建設も計画され、製造した水素を市内の利用者と接続するほか、欧州で計画されている長距離の水素パイプラインにも接続予定です。 これによって天然ガスをグリーン水素で代替でき、長期的には年間120万トンのCO2削減にもなると試算されています。
港はアンモニアの輸入ターミナルとしても整備され、2028年に操業開始予定です。

●中国:国有企業中心に水素ステーションやインフラ整備

中国では水素燃料電池車(FCV)の実証応用が進み、国内に建設された水素ステーションは540カ所以上、FCVは約2万4,000台が普及しているとされています。 中国石化(シノペック)、中国石油(ペトロチャイナ)などの国有企業を中心に水素の製造、輸送・貯蔵、利用に関わるプロジェクトが進行中です。

シノペックは2021年に新疆ウイグル自治区でグリーン水素プロジェクトを開始し、年間約2万トンのグリーン水素を製造しています。 2025年までには水素ステーションとガソリン・水素一体型ステーションを1,000カ所設置する計画です。

中国では供給側と需要側が地理的に離れているため、水素輸送のインフラ整備が求められています。2023年4月に内モンゴル自治区から北京市まで、全長400km以上のパイプライン建設に着工。 北京、天津、河北地域の既存の化石燃料をグリーン水素に代替し、FCVにも活用する見込みです。既存の天然ガスパイプラインも併用するため、水素と天然ガスを混合して輸送する実験も進めています。

 

このように国内外で大規模プロジェクトが進む水素ビジネスは、カーボンニュートラル実現の鍵として期待が一層高まっています。

≪ライタープロフィール≫
  • 南由美子(みなみ・ゆみこ)
  • 愛知県生まれ。飲料メーカーの販売促進、編集プロダクションでの制作を経て、フリーランスに。
  • 中日新聞折り込みの環境専門紙で「世界のエコ」をテーマにしたコーナーを2年半ほど担当。現在はウェブメディアなどで食・住を中心とした暮らしや環境をテーマに執筆。
  • 名古屋エリアのライターやカメラマンで作る一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」のプロ(メディア)会員。

参考

経済産業省 資源エネルギー庁
目前に迫る水素社会の実現に向けて~「水素社会推進法」が成立 (前編)サプライチェーンの現状は?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_01.html

東邦ガス
名古屋港における商用化を見据えた水素供給インフラの設計および検証開始
https://www.tohogas.co.jp/corporate-n/press/1251473_1342.html

ガスエネルギー新聞
【水素特集】最新の技術開発・利用状況を紹介
https://www.gas-enenews.co.jp/tokushu/45795/

NEDO
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
https://www.nedo.go.jp/content/100980768.pdf

ENEOS株式会社
ENEOS、Toyota Woven City にも供給する水素ステーションをオープン!
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20250326_02_01_0906370.pdf

日経ビジネス
トヨタ、大規模水電解装置の製造に参入 水素価格下げるため街もつくる
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00749/060400005/

中部地方環境事務所
水素の社会実装に向けた環境省の取組
https://chubu.env.go.jp/content/000332299.pdf

東邦ガス
東邦ガスグループの挑戦。水素製造プラントの建設と水素需要拡大への取り組みについて
https://biznex.tohogas.co.jp/article?articleId=SV00237

東京都産業労働局
大規模な水素の利用や供給に係る公募採択事業者の紹介
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/sangyo-rodo/01_r7_1_shiryou1

経済産業省 資源エネルギー庁
水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/024_04_00.pdf

OGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト
欧州連合の水素・アンモニア・CCSに関わる取組み
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/751/2509_h_EU_ccs_H2.pdf


欧州で先行する水素関連の大規模インフラ計画
https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/01/22/2501_horita.pdf

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
世界のクリーン水素プロジェクトの現状と課題
グリーン水素とブルー水素の両輪で低炭素水素導入を推進(英国)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/1002/c4621a76afc384df.html

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
北海の地の利を生かし水素プロジェクトを始動(ドイツ・ハンブルク)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/1002/aaee85be5fbb10ab.html

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
大規模のグリーン水素プロジェクトは新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区、吉林省などに最も集中
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/e642ceda5c021fd4.html

NEDO
中国における水素・燃料電池の動向
https://www.nedo.go.jp/content/100950648.pdf

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
中国水素エネルギー産業発展報告、2024年の水素生産・消費量は3,650万トン
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/05/abeade51ea52b5bf.html

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