記事掲載日:2025/10/20
カーボンニュートラルを実現するため、発電や産業で排出されるCO2(二酸化炭素)を回収し、大気中に放出させない技術が注目を集めています。 中でも国が後押しをし、さまざまな研究が進むCO2の有効利用「CCU」について、概要や取り組み事例などを紹介します。(ライター南由美子/nameken)
CO2を分離・回収して地中に貯留する技術は「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と呼ばれます。
その分離・回収したCO2を有効利用するのが「CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)」です。
この2つを組み合わせた技術は、CO2の回収・貯留・有効利用を意味する「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」と呼ばれています。
2019年、当時の安倍晋三首相はスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席し、 「経済成長と環境の好循環」を実現するイノベーションとしてCCUへの期待を示しました。 これを受けて、経済産業省はCO2を“資源”ととらえて活用する「カーボンリサイクル」の推進を打ち出し、 省内にカーボンリサイクル室を設置するとともに技術的な進捗や課題を整理した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を公表しました。
その中では、2030年頃までがカーボンリサイクルに役立つあらゆる技術開発を進める「フェーズ1」の段階とされ、 まずCO2をポリカーボネートやバイオジェット燃料、道路ブロックなど、基幹技術が確立しているものに利用し、普及していくことが目指されています。

(経済産業省 資源エネルギー庁「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」より引用して図解を制作)
CCUの技術は主にCO2の「直接利用」と「間接利用」とに分けられます。
直接利用はドライアイスにして保冷剤として生鮮食品などを輸送したり、溶接時に溶接部を保護する「シールドガス」として使ったりするほか、油田の残存原油を回収する利用法などがあります。
一方の間接利用はCO2をさまざまな物質に変換することです。たとえば、メタンやメタノール、エタノールに変換して燃料や化学品に利用したり、炭酸カルシウムに変換してセメントの原料にしたりします。 また、CO2を吹き込んでコンクリートの強度を向上させたり、藻類の成長効率を向上させたりする利用法もあります。
ただし、CO2をほかの物質に変換するには多大なエネルギーが必要で、このプロセスに化石燃料を使ってしまえばCO2の削減にはなりません。 そこで、CO2変換時に化石燃料の使用を最小限に抑え、再生可能エネルギーを活用する実証実験を多くの企業や研究機関が進めています。
CCUのメリットは、大気中のCO2を大幅に削減できるほか、国内でCO2を調達すれば輸入に頼っている石油などの代替となるため、エネルギー供給の安定化につながり、既存インフラやサプライチェーンをより低炭素で活用できることにもなります。 また、CCUに取り組む過程でステークホルダーを巻き込み、新たなビジネスを創出できる可能性もあるでしょう。
ENEOSは2024年に合成燃料(e-fuel)製造の実証プラントを横浜市内で稼働させました。 合成燃料はCO2と水素の反応でつくる液体燃料で、化石燃料と比べて環境負荷が少なく、既存のインフラ設備をそのまま使えるため、航空機や車の脱炭素化のカギを握る技術だとされています。 このプラントで製造した合成燃料は2025年4月に開幕した大阪・関西万博で、大阪駅と会場を結ぶシャトルバスの一部や会場内で走る来賓・関係者向け車両の一部に使われています。
東邦ガスは、愛知県知多市と連携し、バイオガス由来のCO2を活用したe-メタン製造実証を2024年に開始しました。 バイオガスはそれまでにも都市ガス原料として受け入れており、この実証では新たにCO2を地域資源として活用します。製造したe-メタンは、国内で初めて都市ガス原料として利用します。 e-メタンは、都市ガス導管などの既存のインフラや設備を活用できるため、社会コストを抑えながらカーボンニュートラルの実現に貢献するとされています。
NEDOが推進し、地球環境産業技術研究機構などが参画する事業では、大阪・関西万博で大気中のCO2を直接回収する技術の実証試験を実施。 会場の「カーボンリサイクルファクトリー」で、大気中から1日300~500kgのCO2を回収し、 その一部をメタネーション(※)設備に直接供給してe-メタンを合成し、都市ガスとして利用します。回収したCO2をその場で変換し、利用する事例は世界初とのことです
※メタネーション:水素とCO2を化学反応させることで都市ガスの主成分であるメタンを合成する技術
住友化学はCO2からメタノールを製造するパイロット設備を愛媛県の工場内に新設し、2023年に運転を始めました。 プラスチックや接着剤、薬品、塗料などの原料であるメタノールの製造はCCUの代表的なものですが、収率の低さや副次的に生産された水による触媒劣化といった問題があります。 これらを大学との共同開発によって解決し、収率の向上や設備の小型化、省エネルギー化、触媒劣化の抑制を追求。2028年までに実証を終え、2030年代の事業化をめざしています。
佐賀市清掃工場のごみ焼却施設では、ごみを焼却した際に発生する排ガスからCO2のみを高純度で分離・回収する設備を2016年から稼働。 回収したCO2は藻類培養業者に売却され、化粧品やサプリメントとして製品化されています。また、工場から熱とCO2を農場に配管で供給し、野菜づくりにも利用しています。
CCUは、排出削減が求められつつ身近に大量に存在しているCO2を資源として活用するため、企業にとっては積極的に検討したくなる技術ではないでしょうか。 一方でまだ課題もあり、今後さらなる技術開発が進んでカーボンニュートラル実現に貢献することが期待されます。
環境省
CCUSを活用したカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み
https://www.env.go.jp/earth/brochureJ/ccus_brochure_0212_1_J.pdf
朝日新聞SDGs ACTION!
CCUSとは? CCSとの違いや政策、取り組み事例、問題点を解説
https://www.asahi.com/sdgs/article/14702416
みずほリサーチ&テクノロジーズ
CO2有効利用(CCU)の国内外の動向(1/3)
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/2020/articles_0108.html
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/2020/pdf/mhir20_ccu.pdf
経済産業省 資源エネルギー庁
未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling.html
日経クロステック
CO2貯留・利用で世界をリードへ、2030年実用化目指し実証実験や法整備が加速
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02705/101700032/
ENEOS株式会社
国内初となる原料から一貫製造可能な合成燃料製造実証プラントが完成
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20240931-01_01_0906370.pdf
朝日新聞SDGs ACTION!
ENEOS、「合成燃料」の製造実証プラント完成 二酸化炭素と再エネ由来水素で液体燃料
https://www.asahi.com/sdgs/article/15445868
東邦ガス株式会社
地球を救えe-methane
https://www.tohogas.co.jp/e-methane/
東邦ガス株式会社
知多市と連携した「バイオガス由来のCO2を活用したe-メタン製造実証」の開始について
https://www.tohogas.co.jp/corporate-n/press/1243273_1342.html
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO」
世界初、大気から回収したCO2を都市ガスに変換・利用する設備に直接供給
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101839.html
住友化学株式会社
CO2から高効率にメタノールを製造する革新的技術の確立へ
https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20231212.html
佐賀市
二酸化炭素分離回収事業について
https://www.city.saga.lg.jp/main/44494.html