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EUが導入したCBAM(炭素国境調整措置)とは何かをわかりやすく解説します

記事掲載日:2025/9/26

2050年のカーボンニュートラル達成に向け、世界ではさまざまな取り組みが行われています。 そうした中でEU(欧州連合)が導入した「CBAM(炭素国境調整措置)」も注目されています。CBAMとは何か、いつから適用されるのか。 その概要や導入の背景、各国への影響などについてわかりやすく解説します。(ライター南由美子/nameken)

炭素排出量に基づく負担金を求める制度

気候変動対策への積極性は国によって異なり、その強弱によって生まれる国際競争上の悪影響を調整して、競争条件を均等化しようとする考え方があります。

EUはCO2など温室効果ガス排出規制の緩い国から特定製品を輸入する際、製品当たりの炭素排出量に基づく負担金を輸入事業者に求めることにしました。 これがCBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism=炭素国境調整措置)で、EU域内と同等の炭素価格(CO2排出量に値段をつけるカーボンプライシングによって定められた価格)になるよう、 差額分の支払いを課す制度です。
実際の支払いは、製品の炭素含有量に応じた「CBAM証書」を輸入事業者が購入する形となります。

図:【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシングの図をもとに作成

図:【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシングの図をもとに作成)

●適用対象国

EU域外のすべての国で、日本を含むほとんどの国が該当します。ただし適用対象外となる条件に合致したノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインは除外されています。

●対象製品

CO2排出量が多く、国際価格競争の影響を受けやすいとされるセメント、肥料、鉄鋼、アルミニウム、水素、電力が対象です。

●対象となる事業者

EU域外から対象製品を輸入する、EU域内の事業者です。ただし、欧州委員会は2025年2月に規則を簡素化し、 輸入事業者の約90%に当たる小規模事業者などには義務を免除すると発表しました。
EU域外の生産者は対象ではありませんが、EU域内の輸入事業者からCO2排出量のデータ提供を求められる可能性があります。

●スケジュール

CBAM は2023年5月17日に施行され、同年10月1日から暫定適用期間が始まりました。輸入事業者は製造過程における炭素排出量をEUに報告する義務があります。 この期間中に制度の調整や改善が行われ、2026年1月1日から本格運用、2034年にかけて段階的に導入されていきます。

図:CBAM適用のスケジュール(環境省「【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」から作成)

図:CBAM適用のスケジュール(環境省「【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」から作成)

EU域内の産業競争力を守る目的も

EUは気候変動対策において世界のリーダー的存在です。温室効果ガスの排出量を2030年までに1990年比で55%以上削減することを中間目標に、 2050年までのカーボンニュートラル達成をめざす「欧州グリーン・ディール」政策を掲げています。 その中間目標達成に向けた政策パッケージで「CBAM創設」を打ち出し、重要な政策手段の一つと位置付けました。

EUの企業は、厳しい環境規制の下で事業を行っているため、生産コスト上昇によって国際競争力が弱まり、環境規制の緩やかな国の製品に取って代わられる事態が懸念されます。 また、そうした企業が生産拠点を規制の緩やかなEU域外に移転するケースも考えられます。

そこで、EUはこうしたカーボンリーケージ(炭素漏出)を防ぐための措置としてCBAMを導入しました。 CBAMは気候変動対策をグローバルに進めると同時に、カーボンリーケージを回避し、EUの産業競争力を守るためのものです。

EUのCBAMに対する各国の反応は?

CBAMの負担金は、EU排出量取引制度の排出枠価格と同等の制度を導入している国からの輸入品であれば免除されます。 そのためイギリス、タイ、インドネシアなどは独自の排出量取引制度や独自のCBAMを導入して、自国製品がEU市場で不利になるのを回避しようとしています。

ほかの国の反応は次の通りです。

●アメリカ:トランプ政権下ではCBAMを批判

アメリカ通商代表部(USTR)は2022年から2025年3月まで、CBAMを世界における貿易障壁の一つに位置付けていましたが、懸念程度にとどめていました。 しかし第2次トランプ政権発足後の同年4月、世界の10の不公正貿易慣行としてCBAMを批判しました。 なお、アメリカでは連邦レベルでの炭素価格制度は存在せず、CBAMと類似の措置が導入される予定もありません。 しかし、カリフォルニア州は独自の排出権取引制度を導入し、東部12州も連携して電力会社を対象とした制度を取り入れており、他州へのカーボンリーケージが起きているといわれています。

●カナダ:EUへの輸出増の機会と認識

カナダでは2016年に温室効果ガス排出量の削減目標を掲げた「バンクーバー宣言」が採択され、2018年に連邦炭素税制度が可決されてカーボンプライシング制度がスタート。 高水準の炭素価格を設定していることから、EUのCBAMによる影響は軽微とみられています。 むしろ世界の炭素価格設定国からの輸出は増加する可能性があり、カナダにとっては機会となり得るとの見方があります。

●インド:懸念を表明しつつEUと交渉

インド政府はEUのCBAMに対する懸念を表明する一方、その適用について課題を機会に変えるべく、EUと交渉に取り組む姿勢を示しています。

●中国:2021年から一貫して批判的

中国は、2021年にEUがCBAMに関する案を発表した段階で、「国連気候変動枠組み条約やパリ協定の原則に一致せず、一国主義や保護主義を助長する」と批判しました。 2023年にはWTO(世界貿易機関)の委員会でもCBAMについて討議すべきだと主張しています。
また、排出量取引制度のセクター拡大や製品カーボンフットプリント管理システムの設立などを通して、CBAMに対応するとしています。

日本への影響は当面限定的だが懸念も

では、日本への影響はどうでしょうか。CBAMの対象製品は、日本からEUへの輸出実績が少なく、影響は限定的とみられています。 しかし、鉄鋼分野のねじ・ボルトはEUへの輸出が一定量あることから、経済産業省は「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン」を策定。 報告する必要のある排出量を算出するため、対象製品に関わる温室効果ガスや算定単位、データ収集期間などを具体的に定めました。

一方、経済界からはEUのCBAMがルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序に悪影響をもたらすものだと懸念の声が上がっています。 日本経済団体連合会は、気候変動対策としてカーボンリーケージ対策が必要との考えには同意しながらも、 WTOのルールに不整合な点があるとして、措置導入の検討に際しては少なくとも説明責任、適用除外、公平性などの改善・対応が必要としています。

今後懸念されるのは、CBAM制度のさらなる拡大によりもたらされる影響です。EUでは気候変動対策にさらに貢献しようと、 CBAMの対象製品とCO2排出量の範囲の拡大が検討されており、化学品なども対象となる可能性があります。 対象の産業分野が拡大されれば、該当品目のある日本企業への影響が大きくなることも考えられます。

EUはCBAMが世界のカーボンプライシング制度を促進する効果を期待していますが、日本を含め世界へどのように波及していくのか、注視する必要があるでしょう。

≪ライタープロフィール≫
  • 南由美子(みなみ・ゆみこ)
  • 愛知県生まれ。飲料メーカーの販売促進、編集プロダクションでの制作を経て、フリーランスに。
  • 中日新聞折り込みの環境専門紙で「世界のエコ」をテーマにしたコーナーを2年半ほど担当。現在はウェブメディアなどで食・住を中心とした暮らしや環境をテーマに執筆。
  • 名古屋エリアのライターやカメラマンで作る一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」のプロ(メディア)会員。

参考

経済産業省
炭素国境調整措置
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/cbam/cbam.html

朝日新聞
CBAMとは? EUに導入された背景や規則の内容、日本企業への影響を解説
https://www.asahi.com/sdgs/article/15552942

環境省 脱炭素ポータル
【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/feature-02.html

経済産業省
主要国のCBAM関連動向
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/cbam/pdf/001_04_00.pdf

経済産業省 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
令和6年度脱炭素推進国際会議実施・調査事業費(炭素国境調整措置含む各国の気候変動対策に係る調査・分析)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2024FY/000006.pdf

一般社団法人 日本経済団体連合会
EU-CBAMに対する懸念
https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/042.html

日経BP ESGグローバルフォーキャスト
GX-ETSの詳細ルール、来週にも議論開始へ 注目される3つの論点
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/forecast/atcl/news/062400033/

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