記事掲載日:2025/8/27
カーボンニュートラル実現に向けた国内外の動きを2回にわたって紹介します。 後編は、2025年に公表されたアメリカ・EU・日本の施策、そして日本国内で注目されているカーボンニュートラル関連分野とそれに携わる企業について解説します。(ライター南由美子/nameken)
2025年に入ってからのアメリカ、EUおよび日本のカーボンニュートラルをめぐる動向を見てみましょう。
トランプ大統領は2025年1月20日に第2次政権が発足した同日、パリ協定からの脱退やエネルギー政策の見直しなどの大統領令に署名しました。
<パリ協定脱退についてのポイント>
・アメリカは経済を成長させ、労働者の賃金を引き上げ、エネルギー生産を増やすとともに、大気汚染と水質汚染を減らし、温室効果ガスの排出を削減してきた。
・国際合意はアメリカに不当・不公平な負担をかけてはならない。その策定と交渉については、アメリカとアメリカ国民の利益を最優先する。
・アメリカ国連大使はパリ協定からの脱退について、ただちに正式な書面による通知を提出する。 アメリカとしてはパリ協定およびこれに付随する義務からの離脱は、この通告の規定をもって直ちに効力を生ずるものとみなす。
・国連気候変動枠組条約下でアメリカが実施した資金コミットメントをただちに停止、または取り消す。
ただし、脱退については、パリ協定上は国連事務総長への正式通知から1年以降に効力が生じるため、通知が受領された1年後の2026年1月27日が正式脱退となります。
欧州委員会は2025年2月、気候変動対策と競争力強化を同時実現させるための政策文書「クリーン産業ディール」(CID)を公表しました。 CIDはカーボンニュートラル、産業構造の転換、イノベーションを同時に促進し、レジリエンスの強化をめざすもので、次の6つの分野に着目した施策が示されています。
1. 手頃なエネルギーへのアクセス
電化率は現状の21.3%から2030年に32%達成へ。再生可能エネルギーは2030年までに年間100GW導入をめざす。
<主な施策>
・エネルギー料金の引き下げ
・再エネ導入の許認可にかかる時間の短縮、デジタル化の促進など、クリーンエネルギーの導入を加速化
・正しく機能するガス市場の確保
2. クリーン需要と供給の加速による市場創出
2030年に主要クリーンテック部品のEU国内シェア40%をめざす。
<主な施策>
・公共調達における価格以外の基準・民間調達のインセンティブ
・再生可能・低炭素水素の普及促進
3. 官民投資
産業のグリーン化移行を支援する投資額の拡大をめざす。
<主な施策>
・EUレベルでの資金強化
・民間投資の活用
・CIDによる加盟国支援の枠組み構築
4. 循環経済の促進
2030年までに資源の循環利用率24%(現状11.8%)をめざす。
<主な施策>
・重要資源法の早期の施行
・高品質なリサイクル製品の供給を促進するなどの循環経済
5. グローバル市場・国際パートナーシップ
<主な施策>
・クリーン貿易投資パートナーシップ
・炭素国境調整措置の改善
・EU域内での産業の公平な競争条件の確保
6. 社会的公正と公正な移行のためのスキルと質の高い仕事
クリーン産業のスキルや知識を持つ人材不足の改善をめざす。
<主な施策>
・スキル支援
・移行期の労働者支援
日本政府は2025年2月、「第7次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」を閣議決定。 これらを一体的に遂行し、エネルギー安定供給、経済成長、カーボンニュートラルの同時実現に取り組んでいくことを表明しました。
このうち第7次エネルギー基本計画では、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGXの進展による電力需要の増加が見込まれるなか、
脱炭素電源を国際的に遜色ない価格で確保することが国の産業競争力に直結するため、徹底した省エネルギーと製造業の燃料転換を進めることを前提に、
再エネを主力電源として最大限導入し、なおかつ特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた構成をめざすとしています。
再エネ導入にあたっては、出力変動への対応、イノベーションの加速とサプライチェーン構築、国民負担の抑制などの課題があり、これらに対して蓄電池やペロブスカイト太陽電池、
浮体式洋上風力、地熱発電などの導入拡大などで対応していく方針です。
地球温暖化対策計画には、「エネルギー転換」として以下のような施策が挙げられています。
・再エネ、原子力などの脱炭素効果の高い電源を最大限活用
・移行手段としてLNG(液化天然ガス)火力を活用するとともに、 水素、アンモニア、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留の略語)などを活用した火力の脱炭素化を進め、非効率な石炭火力のフェードアウトを促進
・脱炭素化が難しい分野において水素などを活用
さらに「産業・業務・運輸」については以下が挙げられています。
・工場などでの先端設備への更新支援、中小企業の省エネ支援
・電力需要増が見込まれる半導体の省エネ性能向上など、最先端技術の開発・活用、データセンターの効率改善
・自動車分野における製造から廃棄までのライフサイクルを通じたCO2排出削減、物流分野の脱炭素化
GX2040ビジョンは「GX産業構造」「GX産業立地」「成長志向型カーボンプライシング構想」などの8つのパートで構成されています。 めざす産業構造や成長のために、エネルギー政策と合わせてビジョンの方向性に沿って政策の具体化を進めていくとしています。
次に、日本で成長が期待されるカーボンニュートラル関連分野と、それにまつわる企業の最近の動向をまとめてみましょう。
第7次エネルギー基本計画には、官民協議会が2024年11月に取りまとめた「次世代型太陽電池戦略」も盛り込まれています。
太陽電池は市場の95%をシリコン太陽電池が占め、ほかにもさまざまなタイプが開発されていますが、 軽量・柔軟な特徴を備える「ペロブスカイト太陽電池」は直近10年間で変換効率が約1.5倍に向上しました。
次世代型太陽電池戦略では、ペロブスカイト太陽電池の早期の社会実装を進めていくとして以下の目標が掲げられています。
・官民関係者が総力を挙げて、世界に引けを取らない規模とスピードで量産技術の確立、生産体制の整備、需要の創出に取り組む。
・2040年には約20GWの導入を目標とする。
・2030年までに14円/kWh、2040年までに10円〜14円/kWh以下の水準をめざす。
国はペロブスカイト太陽電池が再エネ拡大の切り札であり、GXの牽引役になるとして強力にサポートしていく方針です。
企業の動向としては、積水化学工業が2024年12月、ペロブスカイト太陽電池の量産化に向けた体制やスケジュールなどを公表しました。 2025年から既存施設での量産を開始し、 工場を新設して2027年から年産100MW規模で量産。その後も継続的に増産投資を行い、2030年には年産1GWに生産規模を拡大するそうです。
2050年カーボンニュートラル実現のカギであり、デジタル社会の基盤を支えるため不可欠なインフラと位置付けられているのが蓄電池です。
蓄電池には「定置用」と「車載用」があり、EV市場の拡大を背景に車載用蓄電池市場が急拡大していますが、2050年に向けて定置用蓄電池市場も成長が見込まれています。 太陽光発電をはじめとする再エネを活用する上での大きな課題は出力制御であり、出力変動に応じて柔軟に充電・放電のできる定置用蓄電システムが重要だからです。

参考)経済産業省「蓄電池産業戦略」より抜粋
定置用蓄電システムの中でも、電力系統に直接接続する「系統用蓄電システム」が果たす役割が増大しているとして国は補助金の活用や法整備で導入を支援。 2025年度当初予算案ではGX経済移行債を活用した導入支援事業に400億円が計上されました。また、家庭用、業務産業用、 再エネ併設用蓄電システムの導入支援にも2024年度補正予算で127億円の措置がされており、市場は着実に成長していくといえるでしょう。
蓄電池事業を手掛けるパワーエックスは、会社設立からわずか3年で大規模な蓄電池組み立て工場を稼働させ、 価格競争力のある製品を投入。大企業が求める再エネ由来の電力を提供するために電力小売ビジネスにも参入し、世界初という電気運搬船の実現もめざしています。 電気運搬船は搭載する蓄電池で電力を海上輸送するもので、2025年に完成させて2026年から国内外で実証実験を開始する予定です。
スタートアップ企業ながら、金融、電力、海運、造船、電機、物流などの有力企業が出資し、事業提携も進んでいます。

出典:経済産業省「定置用蓄電システムの現状と課題」より抜粋
燃料として注目されるのは水素とCO2から合成(メタネーション)する「e-メタン」です。
第7次エネルギー基本計画では、脱炭素化が難しい分野でもカーボンニュートラルの推進が求められるとして、 水素、アンモニアとともにe-メタンの活用に言及。2030年度に供給量の1%相当のe-メタンまたはバイオガスを導管に注入し、 ほかの手段と合わせてガスの5%をカーボンニュートラル化することをめざしており、都市ガス業界も同じ目標を掲げています。
ただ、e-メタンをつくるには効率のよい大規模な「メタネーション設備」が必要です。大量に早く、安価にe-メタンを提供するため、 国内の大手ガス会社を中心にメタネーションを実証する取り組みが進められています。
製造コスト面でも、CO2回収やメタネーションの設備費などのほか、大きな割合を占める水素製造費を低減するため、「革新的メタネーション」が求められています。 そこで2030年に基盤技術の確立、2040年代に大量生産技術の実現をめざした技術開発が行われています。
世界の主なe-メタンプロジェクトであるアメリカの「キャメロンプロジェクト」には、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事などが参画。 テキサス州やルイジアナ州で製造したe-メタンをキャメロンLNG基地から出荷して日本に輸入する計画で、2030年度に供給開始予定です。
国内では、新潟県長岡市で油ガス田から発生するCO2と再エネ由来の水素からe-メタンを製造し、 2026年度までに都市ガス導管へ注入する計画が進んでいます。参画しているのは、INPEX、大阪ガス、名古屋大学です。
愛知県知多市では、東邦ガスと自治体が連携し、バイオガス由来のCO2を活用したe-メタン製造実証が行われており、製造したe-メタンは都市ガス原料として利用予定です。
革新的メタネーションに関する技術開発の状況

出典:(経済産業省 資源エネルギー庁「合成メタン(e-methane)等をめぐる状況についてから抜粋
世界でカーボンニュートラルに向けた取り組みが進んでいますが、世界気象機関(WMO)は、 2024年が観測史上最も暑い年であり、世界全体の年平均気温が産業革命以前と比べて1.55度上昇したと2025年1月に発表しました。

出典:環境省「国内外の最近の動向について」から抜粋
カーボンニュートラル実現のためにはそれぞれの施策を遂行し、目標に近づけていくことが重要といえるでしょう。
環境省 地球環境局
国内外の最近の動向について
https://www.env.go.jp/content/000301471.pdf
経済産業省
第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218001/20250218001.html
経済産業省 資源エネルギー庁
エネルギー基本計画の概要
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20250218_02.pdf
経済産業省
「GX2040ビジョン脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」が閣議決定されました
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218004/20250218004.html
経済産業省
次世代型太陽電池に関わる動向について
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/009_00_03.pdf
経済産業省
次世代型太陽電池戦略
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
日経BP
ペロブスカイト太陽電池の普及戦略、立地と施工法の革新に期待
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00007/00137/?ST=msb
積水化学工業株式会社
ペロブスカイト太陽電池の量産化に関するお知らせ
https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf
経済産業省
定置用蓄電システムの現状と課題
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/shiryo06.pdf
経済産業省
蓄電池産業戦略
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy/battery_saisyu_torimatome.pdf
経済産業省 資源エネルギー庁
系統用蓄電池の現状と課題
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/062_05_00.pdf
東洋経済ONLINE
異色企業「パワーエックス」蓄電池ビジネスの全貌
https://toyokeizai.net/articles/-/828914
日経新聞
パワーエックス、31.7億円の資金調達 蓄電池増産へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC076TC0X00C25A3000000/
株式会社パワーエックス
世界初の電気運搬船、初号船「X」の詳細設計を発表
https://power-x.jp/newsroom/Introducing-the-world’s-first-battery-tankerX
経済産業省 資源エネルギー庁
合成メタン(e-methane)等をめぐる状況について
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/014_03_00.pdf
経済産業省 資源エネルギー庁
天然ガスと合成メタン(e-methane) をめぐる状況について
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/012_03_00.pdf
東邦ガス
知多市と連携した「バイオガス由来のCO2を活用したe-メタン製造実証」の開始について
https://www.tohogas.co.jp/corporate-n/press/1243273_1342.html