記事掲載日:2025/6/27
投資家が判断の基礎となる情報を得られるよう、企業情報開示の充実が図られてきました。 その一つである有価証券報告書に、内閣府令の改正で2023年から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、 対象となる企業に提出が義務づけられました。開示すべき情報の基準となるのは「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」が設けた日本初の「サステナビリティ開示基準」です。 今回のコラムでは、2025年カーボンニュートラル関連の注目キーワード「SSBJ基準」について解説します。(ライター南由美子/nameken)
「サステナビリティ」という概念はさまざまな定義がなされていますが、 東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは「ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を含む中長期的な持続可能性」と表現しています。 具体的には環境への配慮、人権の尊重、従業員の労働環境、公正な取引などが挙げられ、 企業が中長期的な視点で環境問題や社会問題にどう取り組んでいるかを明らかにすることです。
近年は投資家や金融機関が企業を評価する場合、ESGに着目することが増えており、 サステナビリティ情報は企業価値に影響を与える非財務情報として、財務データと同様の価値があるとみなされています。
ESG投資への関心の高まりとともに、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)や GRI(Global Reporting Initiative)などのサステナビリティ情報開示に関する枠組みが生まれましたが、 それぞれ目的やニーズが異なるため開示内容にばらつきがあり、一貫性や比較可能性を求める声がありました。
こうした背景から、投資家の意思決定の助けとなる、信頼性の高い国際的なサステナビリティ開示基準を開発するために設立されたのが 「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」です。これを受け、日本では「SSBJ」が発足。日本企業の実態に沿った国内の開示基準の開発、 および国際的な開示基準の開発への貢献を担っています。SSBJ基準とは、SSBJが日本企業向けにつくったサステナビリティ関連の情報開示基準のことです。 これにより日本企業のサステナビリティ情報開示の質が向上し、投資家にとってより信頼性の高い情報提供が可能となります。
SSBJでは、国際的な比較可能性を大きく損なわせないようにするため、 世界共通のベースラインとなるISSBが開発した「IFRSサステナビリティ開示基準」との整合性を図ることや、 SSBJ独自の取り扱いを追加して企業が適用を選択することを認めるなどの基本的な方針を定めました。 また、適用対象はグローバル投資家との対話を中心に据えたプライム上場企業を想定しています。
SSBJが2025年3月に公表したサステナビリティ開示基準は、ユニバーサル基準と2つのテーマ別基準で構成されています。
<ユニバーサル基準>
<テーマ別基準>
TCFD提言を引き継ぎ、サステナビリティ関連の財務的リスクや機会に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標および目標」の開示を求めている。 なお、「ガバナンス」「リスク管理」はすべての企業、「戦略」「指標および目標」は各企業が重要性を判断して開示する。

(サステナビリティ基準委員会「サステナビリティ基準委員会が我が国最初のサステナビリティ開示基準を公表」より)
有価証券報告書への適用時期については、2026年3月期から任意で始まり、2027年3月期以降はプライム市場の上場企業から段階的に義務化される予定です。 対象範囲は、2027年から時価総額3兆円以上、2028年から時価総額1兆円以上、 2029年から時価総額5000億円以上の企業と広がっていき、 2030年代にはプライム市場に上場する全企業に適用される方向で議論されています。
情報開示において企業に求められるのは、今後の事業環境の変化と自社の未来像を明確化し、取り組むべき重要課題を絞り込み、 長期的な企業価値向上をめざすことです。そのためにはサステナビリティ関連の財務リスクや機会を分析し、評価する体制を構築していくことが必要で、 情報収集のスピードや正確性、プロセスの記録なども求められます。 こうした取り組みを積極的に開示することで、短期的な利益の追求に傾きがちな投資家と中長期的な視点での対話につなげることが期待できます。
SSBJ基準は当面、一部の大企業に適用されるものではありますが、影響はそのサプライチェーンにも広く及びます。 スコープ3温室効果ガス排出をバリューチェーンも踏まえてカテゴリーごとに報告しなくてはならないからです。適用企業と取り引きしている中小企業も、 温室効果ガス排出量の把握が急がれるところです。将来的にはスタンダード市場やグロース市場の上場企業にも適用され、 さらにテーマ別基準は生物多様性や人的資本の領域などにも広がっていく見込みです。
利害関係のない第三者から開示内容が妥当である保証を受ける「第三者保証」の制度化も考えられており、 情報開示の動きが加速していくなか、これまでサステナビリティを強く意識してこなかった企業も社内外の情報を集め、今後の方向性を検討するなど、 時間と人員をかけて取り組む必要に迫られる可能性が高まっています。企業の社会的責任として情報開示を推進することで社会的信頼を築き、 企業価値を高めていく姿勢が重要といえるでしょう。
サステナビリティ基準委員会
サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表
https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html
サステナビリティ基準委員会
SSBJによるサステナビリティ開示基準案の概要
https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/20240423.pdf
サステナビリティ基準委員会
サステナビリティ基準委員会が我が国最初のサステナビリティ開示基準を公表
https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/news_release_20250305.pdf
経済産業省経済産業政策局企業会計室
企業情報開示のあり方に関する懇談会 課題と今後の方向性(中間報告)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/corporate_information/pdf/20240625_1.pdf
三井住友銀行
サステナビリティ情報開示は企業の義務?取り組む理由や留意点を解説
https://www.smbc.co.jp/hojin/magazine/planning/sustainability-informationdisclosure.html
経済産業省
日本の企業情報開示の特徴と課題
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/corporate_information/pdf/001_a_04_00.pdf
金融庁
金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 事務局説明資料
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20240628/01.pdf
金融庁
金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告 -中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220613/01.pdf
大和総研
SSBJがサステナビリティ開示基準を最終化
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20250325_024996.html
公益財団法人財務会計基準機構(FASF)
SSBJ基準とISSB基準の差異の一覧
https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/ssbj_20250331_01.pdf
大和総研
サステナビリティ開示動向アップデート(2) 有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の現状
https://www.dir.co.jp/report/consulting/sustainability/20250324_024986.html