
記事掲載日:2025/3/9
日本のエネルギー消費量の約3割は住宅・建築物分野が占めています(国交省・エネルギー消費の割合、2019年度)。 そのため2050年のカーボンニュートラル実現に建築の省エネルギー化は欠かせず、 既存のビルを省エネ化して価値を高める大規模改修(リノベーション)に対する法制度が整いつつあります。 今回はそうしたビルリノベを実践した4つの先進事例を紹介します。(ライター南由美子/nameken)
東京・有楽町の玄関口に位置するAビルは、1963年に竣工した地上9階・地下4階建ての複合ビルです。 2020年には先行する形で4階を全面改修し、企業が入居するイノベーション拠点をオープン。 2022年8月からは「人を惹きつけるビル」をコンセプトにリノベーションが始まっています。 1階の店舗区画と3階、5階の改修はすでに終わり、ほかのフロアも順次進めて2025年度中に全体が完了する予定です。
リノベーションのポイントとして、外装は竣工当時の昭和30年代のモダニズム建築の特徴である窓のデザインを残しつつ、 ガラス素材は高断熱と遮熱を両立する「Low-E複層ガラス」に全面更新。 熱負荷の低減を図り、省エネ性能の向上をめざしています。
内装には、特徴的なモザイク調アートタイルや開業時からの素材を活かす「ストック型リノベーション」を導入するとともに、 動物由来の原材料を使わない人工的な皮革「ヴィーガンレザー」やリサイクル素材の壁面タイルなどを用いています。
このリノベーションを手がけたディベロッパーは、丸の内エリア全体でエコシステムを支えるデジタル基盤の強化をめざしています。 ビルをネットワーク化してエネルギーの需給調整や電力・熱のミックスをマネジメントし、 効率的かつ環境負荷の低いシステムをつくり、環境共生を図るそうです。
東京・西新宿の高層ビル街にあるBビルは1974年に竣工。日本の超高層建築の先駆けとなった55階建てのオフィスビルです。 時代の変化に対応したオフィス空間にするため、1996年にリノベーションが始まり、4年後に完了しました。
各階4ゾーン分割方式の空調設備、学習機能つきの群管理システムを採用した最新エレベーター、 室内環境とエネルギー性能の最適化を図る「BEMS(ビル・エネルギー管理システム)」を導入。CO2 濃度に基づく外気取り入れ量の最適制御による空調エネルギーロスの低減、 室内照明器具のLED化および調光センサーによる照明制御、屋上緑化なども取り入れています。
運用・管理面では、入居するテナントと一体になったCO2削減活動を行っています。 ビル所有者、運営会社、技術管理者、そしてテナント担当者が定期的に「CO2 削減推進会議」で情報共有し、協力して省エネ活動を推進しています。
好立地で最新ビルの性能に更新したことから、リノベーション完了時にテナントは満室で迎え、 さらに設備の運用管理水準の高さやCO2排出削減体制が評価されて東京都の優良特定温暖化対策事業所の「準トップレベル事業所」に認定されました。
東京・江東区にあるCビルは1999年に竣工した7階建てのオフィスビルです。 カーボンニュートラルに対する社会的な要請や、働き方の多様化に伴うテナントニーズの変化に対応し、 周辺に分散していたグループ会社を集約して新たな「共創」拠点とするため、2022年に「スマートビル」としてリノベーションしました。
改修工事では、作業服を積層したアップサイクル材など、資源循環や脱炭素化に貢献する再生材・集成材を積極的に活用。 独自に開発した「クラウド型の建物OS(オペレーションシステム)」を軸に脱炭素化や運用管理の向上を図っています。
このクラウド型の建物OSとは、環境変化などに即応するIoTセンサーネットワークや、 ユーザーの利便性を考慮したアプリメニューなどを加えたパッケージ技術です。 熱源、照明、自然換気、空調、ビル管理を制御でき、ロボットを活用した警備・清掃もできます。 ハードの更新の必要はなく、ソフトのアップデートのみで建築・設備システムの運用性能を高めていけるそうです。
一方、ハード面では既存建物の吹抜けを新設階段によるオープンな歩行動線でつなぐことで、 入居企業間の連携を深めるなどの工夫がされています。
茨城県にある国立研究開発法人がゼロエミッションの国際共同研究拠点として整備したDビル群は、 1976~80年に竣工した既存の事業所をリノベーションして2021年に完成しました。
サステナブル社会の実現へ向けた次世代型リノベーションとしてテーマに設定されたのは、 「ゼロエミッション志向」「Net Zeroリノベーション」などです。
建物で消費する年間の一次エネルギー収支をゼロ(ネットゼロ)にする「ZEB (Net Zero Energy Building)」を リノベーションで実現するのは技術的にハードルが高く、 工事を手がけた建設会社にとっても初のチャレンジだったそうです。
設計においては独自に開発したZEB評価検証ツールを活用。 複数の検討案のエネルギー性能を繰り返しシミュレーションし、初期段階でZEB達成のための最適解を導き出しました。
既存建物を活かした上で、窓にはLow-E複層ガラスを採用し、外壁面は断熱補強。 設備機器には高効率運転を可能とする個別空調機や昼間の照度を自動的に調整するLED照明、ハイブリッド換気システム、 リチウムイオン蓄電池設備を組み合わせたBEMSなどを採用して、 建物内の消費エネルギーを省エネ計算上で53%削減することに成功しています。
さらに太陽光パネル発電による創エネを加えて計108%のエネルギー削減を達成し、Net Zero リノベーションを実現しました。
既存建築物のリノベーションには国からの補助金によるサポートもあり、 商業施設や教育施設などを対象とした「脱炭素ビルリノベ事業」が2024年3月から12月まで公募されました。
これは省エネ改修や省エネ機器導入を支援する事業で、 断熱材や断熱窓への更新、空調・照明・給湯の高効率機器への改修、BEMSの導入に関わる設備費と工事費を補助するものです。
一般的には国の補助事業は年度単位での事業完了が求められることが多いですが、 既存建築物を改修するには、完了までに数年間が必要なケースが多いことから、この事業では特別に年度をまたいだ工事も対象にしました。 予算の制約で年度末に中断することなく、スムーズな改修工事ができるのがメリットです。
2025年4月からはすべての建築物に省エネ基準適合が義務付けられる改正建築物省エネ法が施行される予定です。 業務用の建物分野でカーボンニュートラル実現に寄与すること が期待されます。
国土交通省
建築物省エネ法のページ
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/shoenehou.html
三菱地所
「丸の内 NEXTステージ」始動
https://www.mec.co.jp/news/archives/mec200124_marunouchinext.pdf
三井不動産
「新宿三井ビルディング」大規模リニューアル工事完了
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2000/0331/
国土交通省
事例21 築40年級の超高層ビルにおいて省エネ化を実施した事例
https://www.mlit.go.jp/common/001206978.pdf
東京都環境局
新宿三井ビルディング
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/toplevel-certification-files-r4_shinjuku-mitsui-building
竹中工務店
既存オフィスビルを、成長するスマートビルに改修
https://www.takenaka.co.jp/central-building-south/
竹中工務店
オフィスビルストック再生のモデルケース「竹中セントラルビル サウス」開業
https://www.takenaka.co.jp/news/2022/10/01/
清水建設
サステナブル・リノベーションによる『ZEB』を実現
https://www.shimz.co.jp/topics/construction/item24/
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
ゼロエミッション国際共同研究拠点の西-4A棟が「5★『ZEB』」認証を取得
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20210401.html
清水建設
産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター
https://www.shimz.co.jp/shimzdesign/works/2021zeroemission.html
環境省 一般社団法人環境共創イニシアチブ 脱炭素ビルリノベ事業事務局
脱炭素ビルリノベ事業とは?
https://bl-renos.jp