記事掲載日:2025/1/6
日本の基幹産業のひとつである製造業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が急務となっています。人手不足や企業間の競争が深刻化し、 不安定な世界情勢が続くなか、市場環境の変化に対応するには、さまざまな課題の解決を見込めるDXが求められます。 実際に製造業各社ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。5つの成功事例を紹介します。(ライター南由美子/nameken)工作機械メーカーのA社は生産現場でのデジタル化を早くから進め、ITを活用した新生産システムモデル「IT Plaza」構想を発表。 主力商品であるNC工作機械の設計から生産までのあり方を見直し、全体最適の実現をめざしました。
このシステムモデルは次の3つの軸を1つの生産システムに統合したものです。
設計から製造までのデータを一気通貫させて行うコンカレントエンジニアリング(※)により、設計、生産技術、加工現場までの開発リードタイムを短縮
変動する生産計画へ柔軟に対応するため、生産管理情報をつなぎ、生産リードタイムを短縮
日々の活動から生まれる技術や技能を蓄積・共有
構築にあたっては、NC工作機械について「自ら考え、成長するインテリジェントNC」というコンセプトを立て、 顧客や周辺機器メーカーなどと共同でシステムやアプリケーションを開発し、トータルソリューションを図りました。
自社のDXへの取り組みの成果であるこのシステムモデルは「ものづくりサービス」としてほかの製造業者にも提供されています。
※コンカレントエンジニアリング:製品開発プロセスを効率化し、複数の業務を同時進行させることで品質向上、開発期間短縮、コスト削減、迅速な市場投入などを実現する手法。
輸送機械メーカーのB社は「経営目線のデジタル改革実行」の一環で、マーケティングや生産部門などさまざまなバックグラウンドの人材を集めて「デジタル戦略部」を新設しました。
デジタル戦略部では「デジタルマーケティング」「コネクテッド」「スマートファクトリー」「データ分析」という4 つのテーマで年間数十個の新たなアイデアやコンセプトを検証。 生産データの収集と分析、ナレッジのデータ化などを行っています。
そのうち「コネクテッド」は2030年までにモーターサイクル、マリンエンジン、電動アシスト自転車などのさまざまな製品をコネクトすることで顧客とつながり、 新しい価値を提供するというビジョンを掲げ、コネクテッドプロジェクトとして企画・開発を進めるものです。
各拠点でバラバラだった基幹システムについては、外部パートナーと連携し、どのようなデータをどこでどのように収集・階層化し、 どう活用するのかなどを検討する「データのライフサイクルマネジメント」にも取り組んでいます。
企業全体で連携してDXに取り組んだことによりエンジニアリングチェーンの省人化と効率化、不良率の低減などが実現されたとしています。
食品メーカーのC社グループは、DXを「デジタルによる事業モデルと業務プロセスの変革」と定義づけ、持続的成長のエンジンの一つとしています。
生産現場では効率を最大化するスマートファクトリーをめざし、「シミュレーション技術による生産の最適化」「AIを活用した予兆保全による品質の安定」 「食品安全システムのデータを活用した食品ロスの削減」に力を入れています。なかでも食の安全を守るため2018年に導入したAI活用の高精度な原料検査装置は、 完成後、多くの食品原料メーカーから引き合いがあり、業界の進歩にも貢献。2020年には内閣府が実施する「日本オープンイノベーション大賞」で農林水産大臣賞を受賞しました。
AIは顧客とのコミュニケーションツールにも活用され、ユーザーの好みや気分に合うドレッシングを診断できるコンテンツ「myドレッシング診断」を開発。 店舗での買い物の支援ツールとしてテスト運用されています。
自動車、船舶、建設機械などに使用される「軸受(ベアリング)」を製造・販売するD社はDX関連の新規事業を創出しようと、 現場作業の疑似体験ができる「VRクラウドソフト」を開発しました。
市販の360度カメラで撮影した写真や動画をクラウドにアップロードするだけで、臨場感のあるVRコンテンツを簡単に制作。 一般的な動画コンテンツでは視聴者自身で映像を動かすことはできませんが、VRコンテンツでは上下左右に画像を動かせ、文字や画像で作業の手順に沿って観ることで、理解度が深まり、能動的体験ができます。 さらに新人研修に取り入れたところ、熟練作業員の技を覚えるまでの時間が最大50%削減。スキル習得の時間短縮にも役立つといえそうです。
こうした「能動的な体験」「現場と同様の360度空間で学習」「反復練習が可能」などが特徴のDXツールはVR研修、 VR安全教育、VR手順書などほかの製造業にも販売され、人材育成に活用されています。
愛知県に本社のある自動車用内外装部品メーカーのE社は、2021年に山形県で自動化設備やIoTシステムを活用したスマートファクトリーを建設。 自動検査システムや無人搬送車を導入し、作業者1人当たりの生産性が従来と比べて倍になったとします。
IoTの活用については、工場内のカメラや設備に搭載したセンサーで稼働状況を可視化。 そのデータをもとに管理者が異常時の対処や現場での改善に素早く取りかかれるようにしました。 また、作業者は製造する品種や開始時間などに加え、作業日報もタブレットに入力して記録します。 こうした改善により設備が停止した際などの原因究明が早くなり、問題の再発率も大幅に下がったそうです。
いずれは設備が自動で良品生産の条件を導き出して製造を始め、故障の予兆があれば部品や修理を手配するなどの形をめざしています。
経済産業省はDXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、 顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。
また、同省の「DXレポート2.2」のなかでは、DXを成功させるための方向性は既存ビジネスの「効率化・省力化」ではなく、「デジタル技術の導入による付加価値向上(強みの明確化・再定義)」や 「新規デジタルビジネスの創出」だとしています。その結果の収益向上こそがめざすものだといえるでしょう。
経済産業省
製造業DX取組事例集
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
ヤマハ発動機株式会社
多様性に富んだ自由闊達な環境から生み出される「感動の未来を創る」ヤマハ発動機のDX
https://global.yamaha-motor.com/jp/recruit/career/nikkei/005/
キユーピー株式会社
経営基盤の強化 DX戦略
https://www.kewpie.com/ir/pdf/kewpie-report/ir_kewpie-report2023_p29.pdf
キユーピー ニュースリリース
第2回日本オープンイノベーション大賞AIを活用した原料検査装置が農林水産大臣賞を受賞
https://www.kewpie.com/newsrelease/2020/1677/
PR TIMES
世界初、良品学習型ディープラーニングで原料検査を低価格に実現!第2回日本オープンイノベーション大賞でAIを活用した原料検査装置が農林水産大臣賞を受賞
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000044559.html
大同メタル工業株式会社
製造業のためのVRクラウドソフト
https://www.daidometal.com/jp/vr/
Koto Online
教育・研修をVR化 大同メタル工業が製造業DXに取り組む目的とは
https://www.cct-inc.co.jp/koto-online/archives/303
米沢市 企画調整部魅力推進課
米沢発!中小企業のスマートファクトリー
https://www.yonezawahinshitu.jp/p_award/米沢発!中小企業のスマートファクトリー/
三井屋工業株式会社
私たちのミッション
https://mitsuiya.jp/mission/mission03.html
経済産業省
デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc3.0.pdf
経済産業省
DXレポート2.2 (概要)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/covid-19_dgc/pdf/002_05_00.pdf