記事掲載日:2024/12/23
「サステナビリティ」という言葉は、いまや目にしない日はないというほど社会に浸透しています。 企業にとっても従来の社会貢献活動とは異なる経営の根幹に位置付けられるようになりました。 しかし、その正確な意味やSDGsとの違いなどはご存知でしょうか。企業経営に対するメリットや具体的な取り組みとともに解説します。(ライター南由美子/nameken)
サステナビリティ(sustainability)とは「持続可能性」を意味し、社会的・環境的な持続可能性と経済成長を成立させようとする概念です。 形容詞のサステナブル(sustainable)には持続できる、維持できる、耐え得る、といった意味があります。
1987年、国連の委員会がまとめた報告書で、自由な経済成長だけに基づく開発に代わるものとして「持続可能な開発(Sustainable Development)」という新しい概念が提唱されました。 これは「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義づけられ、人と地球のために持続可能で強靭な未来を築くよう求めています。 そのためには3つの核心的要素「経済成長」「社会的包摂」「環境保全」の調和を図ることを不可欠としています。
これを機に「サステナビリティ」という言葉と概念が世界に知られるようになり、 1992年の国連環境開発会議(地球サミット)を経て2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)へとつながっていきました。
SDGsは「持続可能な開発目標」を意味し、2030年までに達成すべき世界共通の目標です。17の目標と、さらに具体的な取り組みを示した169のターゲットで構成されています。 サステナビリティとSDGsの違いは、サステナビリティが持続可能な発展をめざす上での基本的な “概念”であるのに対し、SDGsは具体的な“行動指針”を示していることです。
また、サステナビリティには期限の定めはなく、長期的な取り組みを求められますが、SDGsには2030年までという達成の期限がある点も異なります。
サステナビリティは環境・社会・経済の3つの柱に基づいており、これら3つの調和を図ることが重要です。具体的には以下のような考え方や取り組みです。
地球温暖化、資源枯渇、生物多様性の損失などの問題に対応し、環境への負荷を軽減して自然や生態系を将来にわたり健全に保つ活動です。
たとえば温室効果ガス対策、再生可能エネルギーへの転換、森林保護、海洋汚染対策、水資源の節約、生物多様性の保全などが該当します。
すべての人が公正に教育や医療、福祉、社会サービスなどを受けられる環境をつくり、生活を向上させること。 人種や性別などの違いが不平等の原因とならないよう、多様性を尊重し、だれもが参加しやすい社会開発によって持続可能な未来をめざすものです。
現在だけでなく将来の世代のためにも、健全で平等な経済成長をめざすこと。企業には労働環境を整備し、長期的にパフォーマンスを維持して利益を出す経営が求められます。 社会保障の拡充、公正な労働条件の提供、貧困問題の解決なども経済開発の一環です。
サステナビリティの実現は企業経営にとってもメリットがあります。具体的には以下のような効果が挙げられます。
近年、サステナビリティへの関心は高まっており、株主・投資家、取引先、消費者は環境や社会の問題に取り組む企業姿勢を重視するようになってきています。 サステナビリティを意識した取り組みを行うことは、社会的責任を果たしているという企業イメージの向上につながります。 評価や信頼を得られれば、売上アップ、取引先の拡大、リピーターの獲得なども期待できます。
外部環境として、サステナビリティに関連する商品・サービスのニーズ、新たな市場や事業が生まれる可能性が高まります。
企業内では、サステナビリティへの取り組みから新しいアイデアや技術が生まれ、新規事業のチャンスになることも考えられます。 サステナビリティへの取り組みが取引先の拡大や、他社との連携に結びつく可能性もあるでしょう。
環境との調和を図りながら持続可能な社会をめざす企業姿勢は、従業員の共感や誇りにもつながります。 また、企業イメージやステークホルダーからの評価が高まれば、従業員も働きがいを感じやすくなります。 企業への愛着や貢献の意志を深めるエンゲージメントが高まれば、モチベーションアップや組織活性化につながるメリットもあります。
サステナビリティを意識した企業の取り組みとはどんなものなのでしょうか。具体的な事例を3つ紹介します。
2019年度からサステナブル経営を掲げる精密機器製造業のA社のグループでは、2030年までに「サステナブルファクトリー」の実現をめざしています。 「サステナブルファクトリー」は環境への配慮に加えてコンプライアンスや人権、労働慣行、BCP(事業継続計画)、生産性向上などに総合的に配慮した持続可能な生産施設・事業所のこと。 そこで創出される「サステナブルプロダクツ」は「気候変動への対応と循環型社会への貢献」などのA社の重要課題とも結びついた社会課題の解決に貢献し、事業成長に寄与する製品・サービスです。 独自の認定制度を設け、基準に合った「サステナブルプロダクツ」を提供することで、持続可能な社会と継続的な発展をめざしています。
製薬会社のB社は「2040年に向けてカーボンニュートラルを実現する」と宣言し、水の効率的利用、資源の循環利用などの取り組みを進めています。 サステナビリティについては、国際政策に精通した外部専門家によるアドバイザリーボードを設置。 その「サステナビリティ アドバイザリーボード」では人権問題や気候変動への対応、経済安全保障などについても議論し、そのアドバイスを企業価値の向上につなげることをめざしています。
また、カナダのメディア・投資調査会社コーポレートナイツ社が選定する「2024年 世界で最も持続可能な100社」において、 グローバル製薬企業で最上位となる35位にランクされました。日本企業からはB社を含む3社が選ばれ、そのなかでも最上位となっています。 選定理由として温室効果ガスの削減、安全な職場環境や従業員の定着率など従業員価値の向上に資する項目において特に高く評価されています。
1883年創業のバイオメーカーC社は、サステナビリティの概念を取り入れて会社をデザインし直そうと、 各部門から若手・中堅社員を集めたチームを設立し、2020年にサステナビリティ方針を発表。「健康寿命延伸への貢献」「安定的な食料確保」などの4つの重要課題を基軸とし、 「全員参加プロジェクト」による全社体制で持続可能な社会への貢献と企業価値の向上を図っています。
自社で扱う自然由来の糖質「トレハロース」でもサステナビリティに貢献。食品のでんぷんの老化を抑制し、 賞味期限を延ばす特性をいかし、食品ロス低減や安定的な食料確保につなげています。
2024年にはサプライチェーンに関する国際的な評価機関であるフランスのエコバディス社によるサステナビリティ調査で最高位のプラチナ評価を獲得。 「環境」「労働と人権」「持続可能な資材調達」分野でスコアを伸ばしたほか、「環境に優しい、または生物を原料とした原材料を使用している」という点も評価につながっています。
経済産業省は2022年にまとめたサステナビリティに関するレポートのなかで、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティを同期化させ、 持続的な企業価値向上に向けた経営・事業変革を行っていくことを「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」と名付け、その重要性を訴えています。 環境・社会・経済の持続性への配慮は、もはや企業経営に不可欠といえるでしょう。
経済産業省 企業会計室
サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230718002/20230718002-2.pdf
三井住友銀行
サステナビリティとは?企業が取り組むメリットや指標、事例等を紹介
https://www.smbc.co.jp/hojin/magazine/planning/about-sustainability.html
国際連合広報センター
持続可能な開発
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/
NECソリューションイノベータ
サステナビリティとは?SDGsとの違いや企業の取り組み事例を解説
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20230512_sustainability.html
朝日新聞SDGs ACTION!
サステナブルとは?意味やSDGsとの関係性、実践のヒントを紹介
https://www.asahi.com/sdgs/article/14813463
ネスレ
サステナビリティとは?必要性や企業の取り組み例を分かりやすく解説
https://www.nestle.co.jp/csv/sustainability
シチズン時計
サステナブル経営の考え方
https://www.citizen.co.jp/sustainability/management/sustainable.html
エーザイ
サステナビリティ
https://www.eisai.co.jp/sustainability/index.html
ナガセヴィータ
サステナビリティコミュニケーションブック
https://group.nagase.com/viita/assets/pdf/sustainability/sustainability_communication-book_2024.pdf
ナガセヴィータ
EcoVadis社のサステナビリティ調査で最高位の「プラチナ」評価を獲得
https://group.nagase.com/viita/newsroom/press_release/article/20240402-ecovadis/