記事掲載日:2024/12/3
2024年6月、東邦ガス知多緑浜工場の敷地内に建設された水素製造プラントの運転が開始されました。 東海地方の製造業をはじめとした各企業でも、水素への関心が高まっています。日高工業株式会社もそんな企業の一つ。 同社では以前より水素の活用についての検討を進めており、2024年11月には東邦ガスと共に都市ガスと水素の混焼による実証実験を実施。 これまでの取り組みや今回の実証実験について、取締役副社長の坂野さんと生産技術課長の田島さんにお話を伺いました。(インタビューライター 生木卓)
坂野さま:当社は1965年に創業した、金属製品の熱処理を行っている会社です。数ある金属製品の中でも薄板品といわれる形状を得意としており、 当社で熱処理された金属部品は主にトランスミッションやシートなどの自動車部品を中心に、ベアリング、工作機械、電動工具、スポーツ用品などの部品としても使われています。
日高工業株式会社 取締役副社長 坂野さま
田島さま:鋼は約900℃で加熱後、急冷(焼入れ)することで硬くしたのち、約600℃で再加熱(焼戻し)をすることで強度や粘りを調整して仕上げます。 当社では浸炭焼入炉を17台、焼戻炉を19台保有しています。そのうちの浸炭焼入炉では主に加熱源として都市ガスを使用しており、1台あたり毎月3000~5000㎥のガスを使用しています。 以前はすべての熱処理設備の加熱源に電気を使っていたのですが、 電気よりも都市ガスの方がCO2排出量が少ないので、設備の更新を機に都市ガス用の設備に切り替えてきました。
田島さま:熱処理をおこなう過程で発生する排気ガスには水素が含まれます。水素がガソリンに替わるエネルギーとして注目されるようになった2016年頃から、 当社では「熱処理で発生する水素を燃焼のエネルギーとして再利用できないだろうか」というテーマで研究を進め、愛知県からも補助金をいただきながら実証実験を行ってきました。 結果としては、瞬間的なエネルギーには転換できましたが連続運転には結びつかず、実用化には至りませんでした。
坂野さま:2016年以降も水素の利用についての検討は続けていました。そんな中、東邦ガスさんの実験で都市ガス用のバーナーを水素でも利用できることが実証されたという話を聞き、 「水素だけで大丈夫なら、都市ガスと水素を混ぜても大丈夫なのでは?」という仮説を立て、東邦ガスさんに一緒に実験をしませんか?と声を掛けました。また水素利用の安全指標が改定され、 「50%以下(体積ベース)の利用量であれば、都市ガスの設備のままでも水素の利用が可能」であると示されたことや、 これまで補助金を申請してきたノウハウがあり、この実証実験であれば補助の対象となるだろうという手応えも、後押しとなりました(2024年度 新あいち創造研究開発補助金として採択)。
田島さま:当社の工場の一部を利用して、東邦ガスさんと設備メーカー(オリエンタルエンヂニアリング株式会社)との共同プロジェクトとして進めていきました。 一番苦労したのは、都市ガスと水素を混焼させるためのユニットの仕様です。既存の燃焼設備の一角に混焼ユニットを配置して、そこで都市ガスと水素を混ぜて掛け合わせてバーナーに供給するための装置です。 バーナーと配管については、都市ガスのものをそのまま利用しました。 水素については、東邦ガスさんで製造したものをカードルで輸送してもらいました。既存の設備がそのまま使えることで、コストも最小限に抑えることができました。
混焼ユニットを配置した燃焼設備
実証実験に使われた混焼ユニット。工場内の限られたスペースでも設置できるコンパクトな仕様に
坂野さま:先日実験が終わったばかりで、まだ詳細な数字は出ていませんが、概ね好感触でした。目標としていた都市ガスと水素の混合比において、 炉内の昇温速度と温度分布は、都市ガスのみの場合とほとんど変わらない数字が出ています。排ガス中のNOxについても、規制値を下回る結果が出ました。
坂野さま:今回の実験は短時間での稼働のみでした。今後はデータ収集の方法や異常値が発生した場合の対策などを検討した上で、 1週間程度の連続運転も行ってみたいと考えています。また現状では都市ガスに比べて水素はどうしても価格が高くなるので、費用対効果についても十分に検討していかなければなりません。 その一方で、取引先や同業者の中にも、今回の実験に興味を持ってくれたところが少なからずありました。 都市ガスをいきなり100%水素に切り替えることは難しいですが、1社でも2社でも仲間が増えていくことで、より水素がエネルギーとして利用しやすい世の中になっていくことを期待しています。