記事掲載日:2024/9/20
「2050年カーボンニュートラル」を目標に掲げている国や地域は日本を含め120以上といわれ、今や世界的な社会課題となっています。 その目標達成のためには、もはや企業単独の取り組みでは限界があり、サプライチェーン全体で効率的に取り組んでいくことが必要といえます。 今回はそうしたサプライチェーンでのカーボンニュートラルの取り組み事例を紹介します。(ライター南由美子/nameken)
サプライチェーンとは、原材料や部品などの調達から商品の開発、生産、在庫管理、配送、販売、廃棄までを ひとつのつながりとして捉えた製品供給の流れで、直訳すると「供給連鎖」です。 たとえば、自動車は1台に約3万点の部品が使われ、数百社に上るとされるサプライチェーン全体で効率的に生産を行い、コスト削減につなげています。
サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量の捉え方として「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」という分類方法があります。 スコープ1〜3の排出量の合計が「サプライチェーン排出量」になります。
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また、企業が排出量削減目標を掲げる際、国際的な基準の「SBT(Science Based Targets、科学的に整合性のある目標)」を採用するケースが増えており、 SBTではこのサプライチェーン排出量の削減を求めています。
環境用語解説②「SBT」「カーボンプライシング」とは?わかりやすく解説します
(環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「サプライチェーン排出量全般」より)
製造業のサプライチェーン排出量の8割以上は「スコープ3」が占め、その大半は販売製品の使用による排出といわれます。 特に自動車産業は「スコープ3」の比率が高く、中でも自動車の走行で生じるCO2排出が大きいのが特徴です。
2050年までのカーボンニュートラル実現を宣言しているA社は、エネルギーを「つくる」「はこぶ」「つかう」 というすべてのプロセスでCO2を削減するとして、サプライチェーン全体での対策を進めています。
パリ協定に先立つ 2015年10月には、ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ、 新車CO2ゼロチャレンジ、工場CO2ゼロチャレンジ、人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジなど6つのチャレンジを掲げ、 「CO2ゼロ」と「プラスの社会」を目指し、持続可能な社会の実現に貢献していくことを打ち出しました。
2021年度には、直接取り引きをする主要部品メーカーに、CO2排出量の前年比3%削減を要請。 これは前の年より1ポイント厳しい数字だとして注目を集めました。
また、2021年からは2次以降の取引先のCO2排出量も調査を開始し、駆動部品や車体部品など約80品目ごとに排出量の見える化を目指しています。
2024年には、自動車の脱炭素化に向けてCO2を排出しないカーボンニュートラル燃料を導入する検討をスタート。 石油元売会社や重機械メーカーと連携して調査や制度設計を進め、2030年ごろの導入を目指すとしています。
電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)など、多様な動力源を提供する「マルチパスウェイ(全方位)」戦略を掲げるA社では、 カーボンニュートラル燃料の活用で、ガソリン車のCO2削減にもつなげていく方針です。 また、カーボンニュートラル燃料の普及に貢献する新型エンジン開発も進めています。
世界的な食品・飲料メーカーであるB社は、「2030年までに温室効果ガス排出量を半減し、 2050年までに排出量実質ゼロを達成する」という期限を設定した目標計画を2020年に発表しています。
実質ゼロ達成への取り組みには3つの主要分野があり、その一つが「再生農業」の導入支援です。
「再生農業」は、50万人を超える農業従事者、15万を超えるサプライヤーと協力して行うもので、 土地を健全にし、多様な生態系を維持・回復させるための農業システムです。 より多くの炭素を土壌に吸収・蓄積することで温室効果ガス排出量の削減に寄与します。
これに対して、B社は農産物に割増価格を支払ったり、大量購入したり、必要な設備に投資したりします。
こうした「再生農業」によって「2025年までに主要な原材料の20%、2030年までに50%を調達する」目標を掲げます。
B社の温室効果ガス総排出量の約3分の2は土地利用や農業に由来するため、「再生農業」は排出量実質ゼロを目指す道筋の中核となっています。
ハウスメーカーのC社は、2008年に「2050年に住まいからの炭素排出をゼロにする」といち早く宣言。 2030年度の中間目標として、サプライチェーンから排出されるCO2を2013年比で45%削減する計画です。
グループのCO2排出量のうち35%を占めるのが、サプライチェーンから排出される資材・原材料調達で、 「スコープ3」のカテゴリー1に該当。この削減に2021年度から取り組みを始め、サプライヤーには「SBT」の認定取得を啓蒙しています。 勉強会を行うほか、相談窓口を設けて具体的なアドバイスも行っています。 主要サプライヤーにおけるSBT目標設定率は、2021年度は22%で、2030年に80%まで引き上げる目標です。
CO2排出削減のほか、サプライヤーには事業で使用する電気に再生可能エネルギーを100%導入するよう呼びかけ、 実効性のある取り組みを進めることでカーボンニュートラル社会の実現に寄与するとしています。
また、グループのCO2排出量のうち最大比率の53%を占めるのは、供給した住まいから排出される居住段階のCO2で、 「スコープ3」のカテゴリー11に該当。 これを減らすため、従来の住宅よりCO2排出削減効果がより高いZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に取り組んでいます。
供給した戸建住宅におけるZEHの2021年度の実績は92%で、日本全体のZEH比率16.8%を大きく上回っています。
なお、2030年までに自社で直接的に排出する「スコープ1」と間接的に排出する「スコープ2」におけるCO2排出は、 2013年度比で50%の削減を目指してきましたが、2021年度実績で46.6%削減を達成。目標を75%削減に上方修正しています
小売業のD社は、2018年に脱炭素ビジョンを策定し、「店舗」「商品・物流」「お客さまとともに」の3つを柱に、 事業の過程で発生する温室効果ガスを総量でゼロにする取り組みを進めています。
サプライチェーンにおけるCO2削減のため、2021年に「スコープ3排出量」の管理・削減に向けた取り組みを本格的に開始しました。
「スコープ3排出量」は、15あるカテゴリーのうち約半分を占めるのがカテゴリー1の原材料の調達、パッケージングの外部委託、 消耗品の調達などの活動です。そのため、まずプライベートブランド食品の主な製造委託先に対して、気候変動への取り組みに関する方針や取り組み状況などを調査。 将来的には、プライベートブランド食品の製造過程で発生するCO2をより高精度に算出し、サプライチェーン全体での具体的な削減計画を策定し、 カーボンニュートラルに向けた企業間連携につなげる考えです。
「スコープ1」「スコープ2」については、すでにさまざまな形で達成度の把握・管理を行っています。 2030年までには50%の再生可能エネルギー導入を目指し、 2050年までには店舗で排出するCO2を総量でゼロにするとし、後者の目標は2040年に前倒しした達成を目指しています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)
サプライチェーンを意識して脱炭素化対応を(世界、日本)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/0301/7e562c0dc822c14a.html
経済産業省
サプライチェーンリスクと危機からの復旧
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2021/pdf/02-01-02.pdf
富士通
カーボンニュートラルは、企業単独からサプライチェーン全体で取り組む時代へ。その実現の鍵とは?
https://www.fujitsu.com/jp/innovation/data-driven/column/01/
nikkei4946.com
経済用語Basic サプライチェーン
https://www.nikkei4946.com/knowledgebank/basic/detail.aspx?value=102
経済産業省 資源エネルギー庁
知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/scope123.html
環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
サプライチェーン排出量全般
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
株式会社日立ソリューションズ
製造業におけるカーボンニュートラル対応への取り組み~サプライチェーン排出削減を原料資材リサイクルで取り組んだ部品メーカーの事例〜
https://www.hitachi-solutions.co.jp/smart-manufacturing/sp/column/detail21/
トヨタ自動車
Toyota’s Views on Climate Public Policies 2023
https://global.toyota/pages/global_toyota/sustainability/esg/environmental/climate_public_policies_2023_jp.pdf
日刊工業新聞社ニュースイッチ
中小の“脱炭素化”促すトヨタの本気度。サプライヤーにCO2削減要請
https://newswitch.jp/p/27500
日経新聞
トヨタや出光など、脱炭素燃料の導入検討 2030年にも
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD274LG0X20C24A5000000/
ネスレ
ネスレ、気候変動の取り組みを強化
https://www.nestle.co.jp/media/news/climate-change-net-zero-roadmap
ネスレ
再生農業
https://www.nestle.co.jp/csv/impact/regeneration/regenerative-agriculture