「人」の問題で泣く毎日から「指示ゼロ経営」へ。パラダイムシフトが起きた瞬間とは!?|TOHOBIZNEX

「スタッフ全員が経営に取り組む」岐阜の美容室経営者が取り入れた「指示ゼロ経営」で「自立型」の組織へ!

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記事掲載日:2023/10/12

店長はいない、日曜日は休み、給与はスタッフ自らが決める。 一風変わった美容室が岐阜市にある「月と風」です。ここで取り入れているのは、 社長が指示命令を出さない「指示ゼロ経営」。その方法を経営者の武藤花緒理さんに伺いました。(ライター・南由美子/nameken)

「指示ゼロ経営」の美容室を経営する武藤花緒理さん(筆者撮影)

「指示ゼロ経営」の美容室を経営する武藤花緒理さん(筆者撮影)

Q. まず「指示ゼロ経営」とは何かを教えてください

社長や上司に指示されなくても、自分たちで考え、動いて、成果を出すチームによる経営です。 自律型とか自走型といわれる組織のことです。経営アドバイザーの米澤晋也さんが提唱している経営論で、 「人材を育てる」のではなく「“人財”が育つ場」をつくり、役職は置きません。具体的な手法が決められているわけではなく、 どのように場をつくるのかはそれぞれ。当社では私がこれまでに学んだマーケティング論なども踏まえて実践しています。 基本的には、当社のミッション「人と自然がつながるモノと場所をつくり、Happyな人を増やす」から外れなければ何をしてもいいと考えています。

Q. 「月と風」ではどのように「指示ゼロ経営」をされていますか?

「月と風」は、天然ヘアカラーのヘナを輸入・販売する「エコノワ」が直営するヘナ専門美容室で、 岐阜市内に2店舗を展開しています。指示ゼロ経営は「月と風」と「エコノワ」全社で取り入れています。役職は置かないため、美容室に店長はいません。 給与は年に2回の給与会議でスタッフ自身が決めています。休日は日曜日と月曜日です。私の子ども時代の経験から、美容師も週末は家族と過ごしてほしかったので、 当初は土日を休みにしようとしたら、スタッフに「さすがに土曜日はやりましょうよ」と意見され、土曜日は営業しています。

スタッフ全員が経営を擬似体験

Q. 給与を自分たちで決めるというのはハードルが高くないですか?

その通りです。最初は「みんなで決めていいよ」というのが「指示ゼロ」と思っていましたが、 段階を踏まないと機能しないこともあります。知識がないと意思決定はできないからです。 そこでマネジメントを楽しく身につけられると多くの企業で採用されている経営シミュレーションゲーム「マネジメントゲーム(MG)」の理美容版を取り入れました。 この擬似体験を活用し、スタッフによる全員経営に取り組もうとしています。

給与会議には私は基本的に同席しませんが、スタッフは全員参加し、現在は資格などの条件に応じた金額にしています。 しかし、たくさん働いて稼ぎたい人もいれば、そこまで望んでいない人もいる中、この一律型が正解かどうか、何が正解かはわかりません。 これまでは個人にインセンティブをつける指名制などは競争が起こる弊害もあるため採用しませんでしたが、 今後の話し合いで変わっていく可能性はありますね。

「指示ゼロ経営」の美容室を経営する武藤花緒理さん(筆者撮影)

経営計画発表会の様子(エコノワ提供)

Q.仕組みが変わる可能性もあるのですね

はい。ほかに、店長ではなくチームリーダーのようなスタッフが必要ではないかと思っているところです。 誰かに頼りたいと感じる人もいるし、アドバイスを受けたい新人もいると思いますから。ただ、チームとしてのバランスが崩れないよう、 責任や権限のないまとめ役というのが適切かもしれません。また、2023年春には初めて経営計画発表会も実施。 「月と風」2店舗と「エコノワ」それぞれのスタッフが経営計画を作成し発表する場をつくりました。

「会社のミッションから外れなければ何をしてもいい」と話す武藤さん(筆者撮影)

「会社のミッションから外れなければ何をしてもいい」と話す武藤さん(筆者撮影)

はじめは「人」の問題で泣く毎日

Q. そもそも「指示ゼロ経営」とはどのように出合ったのでしょうか?

私自身は美容師ではなく、もともと実家が美容室を営んでおり、20年ほど前は私がマネージャーを務め、 スタッフが16人ぐらいいました。売り上げさえ伸ばせば店は成り立つだろうと、新しいことを取り入れて業績を上げたら、「人」の問題が出てきたのです。 スタッフ同士、スタッフと経営側…人間関係がギクシャクして、毎日皆の不平不満を聞き、毎晩泣いていましたね。最終的にほぼ全員に辞めてもらい、 わずかなパートスタッフと再出発したのですが、そのスタッフたちは揃って退職を伝えてきたのでした。

一方、私は売り上げを伸ばすきっかけになったヘナと出合ったことで、植物生まれのヘアカラーであるヘナをインドから輸入し、 全国の理美容室に販売する会社「エコノワ」を立ち上げ、順調に取引先を増やしていました。ヘナ専門美容室をつくる構想も練っていたのですが、 人材マネジメント能力はなく、リーダーには不適切だと悩んでいたときに参加したのが「指示ゼロ経営」のセミナーでした。 組織をどう管理しようかという悩みから、そもそも管理しなくてもいいんだという気付きに変わったのです。 これならできるかもしれないとパラダイムシフトが起きた瞬間でした。

実家の美容室を一新し、2017年10月に「月と風 長良店」をオープン。2018年から「指示ゼロ経営」を取り入れ、 2019年2月に2号店「月と風 城東通店」を立ち上げました。

Q. 「指示ゼロ経営」を取り入れた成果はいかがでしょうか?

コロナ禍もありましたが、結果的に4期連続、増収増益です。スタッフ数は全社9人で、 これまでの退職者は1人なので定着率も高いといえます。スタッフたちは「自由にさせてもらっている」「自分たちで決めている」という思いを持っているようで、 そうした自己決定性がモチベーションを上げるために欠かせないと実感しています。商品やサービスをつくるのはスタッフです。 日々お客さんと接するスタッフが、どうしたらお客さんに喜んでもらえるかを考え行動に移すことで、企業の利益にもつながっていきます。

Q. 最後に、「指示ゼロ経営」はどんな事業者に向いているとお考えですか?

業種を問わず、「人」に関わる課題を抱えている会社ではないでしょうか。当社もまだ道半ばです。 あえて採点すると60点で伸びしろはまだまだあるので、成長をより加速させていきたいと考えています。

社内ミーティングの様子(エコノワ提供)

社内ミーティングの様子(エコノワ提供)

スタッフは「皆で一緒に成長」「自分で考える習慣ついた」

●2号店の城東通店のスタッフ

ヘナ専門ということに加え、日曜日休みという労働条件にもひかれ入社しました。 指示ゼロで皆と一緒に成長していけることをうれしく思います。ただ、給与会議では全体最適より個人の希望を主張するような場面もあり、 いくつかの局面を経てきました。これまでなかった歩合制なども含めてより良いものを考えていきたいです。 ほかに、各店で自主的に会議を開いてお互いの考えを共有する機会も設けています。

●「月と風」の立ち上げ時から勤めているスタッフ

給与を自分たちで決めるのは衝撃的でした。給与会議では数字が苦手な人は発言が少なくなりがちでしたが、 MGを実践して「ゲームで勝因になったこのことをやってみたらどうだろう」という意見も出るようになりました。 最初、武藤が不在だと不安で仕方なかったのですが、最近は後から報告しようとして忘れる場合もあるほど…。 課題はありますが、自分たちで考える習慣がつき、成長したように感じます。

≪ライタープロフィール≫
  • 南由美子(みなみ・ゆみこ)
  • 愛知県生まれ。飲料メーカーの販売促進、編集プロダクションでの制作を経て、フリーランスに。
  • 中日新聞折り込みの環境専門紙で「世界のエコ」をテーマにしたコーナーを2年半ほど担当。現在はウェブメディアなどで食・住を中心とした暮らしや環境をテーマに執筆。
  • 名古屋エリアのライターやカメラマンで作る一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」の会員。

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