記事掲載日:2023/9/22
飲食店の開業は身近な起業のひとつであり、性別年齢を問わず多くの人がいつかは「自分の店を持ってみたい」と夢見るものです。 しかしながら、参入障壁の低さや計数管理不足も相まって、一年ももたずに廃業してしまうお店が後を絶たない事実がそこにはあります。
本記事では飲食店の開業を考えている方にスポットを当てて、 費用や課題をリアルな数字で紐解いていきます。(経営コンサルタント 黒田直和)
実際にあったケースを元に、数字を裏側から見てみましょう。いつの時代も飲食店開業の人気上位に入る「カフェ」と、 赤身肉ブームから人気業態として定着してきた「肉割烹」の二業態。比較のため、条件を同じテナントで開業した場合で考えてみます。
ここでのテナントは、郊外立地の個人経営の店舗居抜き(カウンター有り8席/テーブル席4名掛け×2)、 賃料は月額10万円とします。開業にあたってそれぞれ改装を行い、カフェはカウンター10席/テーブル席2名×4の最大18席、 肉割烹はカウンター6席/テーブル席4名×1の最大10席とします。 また、週に一回の定休日を設けます。どちらのお店もオーナーさん自ら現場に入り、調理や接客の業務を行います。
それでは、いざ開業してからの数字をチェックしていきます。 まずは売上を算出していくのですが、売上は「客単価×客数(席数)×回転率」の式によって導き出します。 ここに曜日や時間帯の波、座席の稼働率等を付け加えて考えていきます。
①モーニング②ランチ③アフタヌーンの三部構成で、各時間帯それぞれが約一回転しており、 平日と週末の大きな波もなくいつ行ってもお客さんがいるとします。 こだわり食パンのモーニングサービスや日替わりパスタランチ、午後のデザートセット等のラインナップでどの時間帯にも売りとなるメニューがあるとします。
①ランチ営業はせずに予約制の高級弁当のみを販売し50個/月販売②ディナーの二部構成です。 平日はカウンターに二組、週末はお酒も飲まれる方も増えて三組の集客があるとします。お肉やワインがお好きなアッパー層のお客様さまが多く、 ゆったりとした隠れ家的なお店で滞在時間が長く回転は見込まないとします。
売上が出揃ったので、次はお店の営業をするうえで発生する費用についても具体的な数字を用いて考えていきます。 共通する費用は以下の通りとします。
続いて飲食店経営において重要な費用の指標となる「FLコスト」を見ていきます。 「FLコスト」は、飲食業界の重要な指標で、「F」はフード(食材、材料費)、「L」はレイバー(人件費)を意味します。
売上に対してこの「F」と「L」が占める割合が低い程、健全な経営ができていると判断することができます。 一般的には60%のラインを目安に経営状況をチェックします。では、「FLコスト」について見ていきましょう。
【カフェ】食材原価率は30%。モーニング~ランチ終了までの8時間はスタッフ一名を配備とします。
【肉割烹】ブランド和牛を使うことも多く、食材には原価をたっぷり掛けて42%と高水準。 一人で十分に調理/接客ができるためスタッフを雇用する必要はないとします。
どちらのお店もFLコストの点から判断すると健全な数値の範囲と言えるでしょう。 それでは「F」「L」に共通でかかる費用を足して全体の数字を見ていきましょう。これらを売上から引いた数字がざっくりとした利益となります。
【カフェ】956,800円ー495,040円ー265,000円=196,760円
【肉割烹】1,218,000円ー511,560円ー265,000円=441,440円
さらに開業時に借入れをおこしている場合は、借入金の返済も加味する必要があります。
朝からいつもお客さんが入っているイメージのお店と、夜しか開いていないお店。 外から見る飲食店と内側から数字で見る飲食店にはこれだけの違いがあります。
これから開業を目指される方はご自身が「やりたいお店」に加えて「しっかり儲かるお店」も計画に入れ、感覚でなく数字で考えることで成功の確率を高めることができます。
飲食店経営はやりがいも楽しさも大きな仕事です。本コラムを通じて微力ながら応援させていただきます。